前回は、好感をもったヘッドフォンと、そのときに使用したペンとに汎化が生じ、ペンにも好感をもつようになるという研究を説明しました。
今回は、それとはまた違った観点から考察していきます。
ではまず、下記の研究から見ていきましょう。二種類の商品の好き嫌いを調査する研究です。
被験者にはモニターに表示される商品(A、B)を眺めてもらった。A商品は上から下へ、B商品は右から左へと商品が流れていく。そしてそのどちらに好感をもったかを調査した。すると、上から下へ流したA商品の方に好感をもつことがほとんどだった。さらに、別の被験者には、先の調査において上下に流したA商品を左右に流し、左右に流したB商品を上下に流すと、やはり上下に流したB商品に好感を抱く人の割合が高かった。[J. Forster (2004)]
初めは、A商品が人気で、次の実験ではB商品が人気だったのです。そしてその共通点は、「上下に流した」ということです。
なぜこのようなことになるのかと言うと、上下の頭の動きは「Yes」であり、左右の頭の動きは「No」だからなのです。
上下に流れる商品を眺め、「Yes、Yes…」と頷くのと同じように頭を動かしながら商品を見ていることで、その商品に対しても好感を抱いたのです。そして、左右においては反感を抱いてしまった。
「本当にそんなことで好き嫌いが決まるのか?」と思われるかもしれませんが、この研究は、その後の追跡調査においても同様の結果になったことから、信憑性は高いです。
身体活動が感情や思考に影響を与える証拠は他にもたくさんあります。
その好例が『顔面フィードバック説』でしょう。
楽しくて面白いと、ヒトの口角は横へ広がりながら持ち上がり、目じりは広がりながら下がります(つまり、笑います)が、それと同じ動きをすると、楽しい、面白いという感情が生まれやすいようなのです。
被験者に二種類のマンガを読んでもらった。一方のマンガを読むときは、ペンを横にして歯でくわえ、ペンが唇に触れないようにしたまま読んでもらい、もう片方のマンガを読むときには、ペンを縦に(垂直に)唇でくわえてもらい読んでもらった。すると、ペンを横にくわえて読んだマンガの方が、「面白い」と評価された。[F. Strack, L. L. Martin and S. Stepper(1988)]
ペンを横にくわえる顔の動きは、笑う時の口角の動きと似ています。そのため、ペンを横にくわえた人は「笑いながらマンガを読んでいたような気になる」のです。そして、それを「マンガが面白かった」と評価したわけです。一方、ペンを縦(垂直)にくわえると、強制的に笑えない状況となり、マンガも楽しめなくなるのです。
心と身体は、まさに一体です。
というよりむしろ、心よりも身体の方が先行していると言ってよいでしょう。
ヒトの意識や思考といった”心”は、新哺乳類脳によって生じるものだと説明しました(『ヒトには三つの脳がある』参照)。
その新哺乳類脳は、身体活動や生理的反応、情動を司るの旧哺乳類脳や爬虫類脳に上乗せして、後から発達した脳部位です。(もっと言えば、脳が誕生する前は、生物は身体だけで生きていた!)
つまり、新哺乳類脳は、進化の歴史からしても”後付け”の脳部位と言えるのです。
そのため、新哺乳類脳がしていることは、「初めに生じる身体反応や情動を観察しつつ、今の状況から理由を考察する」ということなのです。
先のマンガを例にとると、新哺乳類脳は「身体は笑顔を作っている、そして今はマンガを読んでいる。ということは、このマンガが面白いのだ!」と思考しているのです。
吊り橋の実験では、新哺乳類脳は「生理反応はとても高揚してドキドキしている、そして今、異性と会話している。ということは、この異性に恋愛感情を抱いているのだ!」と考察している。
他にも、ふんぞり返って人の話を聞くより、前かがみになって人の話を聞く方が、おもしろく話を聞けるという研究結果もあります。そこでも「身体は前かがみになってのめり込んでいる、そして今、人の話を聞いている。ということは、この人の話がおもしろいのだ!」と脳が後付けしているわけです。
こういった、「意識や思考は後付けなんだ」という事実を知ることで、とても重要な考察が得られます。それについてはまた次回に説明していきます。
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私もなにかの本で読んだことがあります。
「悲しいから泣く」ではなく「泣くから悲しい」のだと。
「楽しいから笑う」のではなく「笑うから楽しい」のだと。
改めて勉強になります!
ゴチになります!
こちらこそ、ゴチになってます!
妊婦の記事なんかは、明快で分かりやすかったです。
これからもよろしくです!