photo by Steven Worster
スポーツを始める前には、大抵、準備運動をしているかと思います。
いわゆる準備運動と言えば、「軽くジョギングをして身体を温め、その後入念なストレッチ体操をする」といったものでしょう。
それでケガを予防できると信じ、世の中に定着してきたわけです。
しかし、そういった準備運動では、ケガを予防する効果がほとんど(あるいは全く)無かったことが判明しているのです[Effects of stretching before and after exercising on muscle soreness and risk of injury: systematic review.]。
今回は、そういった従来の準備運動に代わる効果的な運動、神経筋ウォームアップを紹介します。
まずその概要についてですが、
この運動は、「神経系と筋肉の協調性・連動性を促進する運動」になります。
前回も説明した通り、筋肉は神経系によって制御されており、例え強大な筋力があっても、筋肉に柔軟性があっても、神経系がうまく働いていないとスムーズな体さばきをすることはできません。
これは、ロボットを使って「より速く走らせる」ことを考えると分かりやすいかと思います。
人の”筋肉”と”神経系”が、ロボットの”動力”と”操縦士”に相当します。
そう考えると、「どんなに強力な動力(筋力)を持つロボットでも、うまく操縦できなければ、ロボットは派手に転倒して壊れてしまう」ということが理解できるでしょう。
つまり、体を効率よくスムーズに動かすためには、それを制御する神経系の役割が重要なのです。
神経系が適格な指令を出すことにより、体中の数百を超える筋肉が協調的にバランスよく働き、パフォーマンスを上げ、ケガを予防できるのです。
そしてこの、神経系を活性化することができるのが、神経筋ウォームアップです。
この神経筋ウォームアップは、目的は同様でも、その方法論はさまざまです。
どの競技においても、同様の運動でよいとするものもありますし、短時間で簡潔に行うものから長時間を要するものもあります。
何がベストかは、未だに意見が分かれるところですが(そもそも、皆の見解が一致することなど絶対にあり得ませんが)、僕は「どんな競技の準備体操なのか?」というところに焦点をあてることが重要だと考えています。
そして、準備体操にあまり時間を取られ練習時間が減ってしまうのも良くないと考え、最低限のウォームアップを短時間で行えばよいと考えています。
(※こちらの研究→『神経筋ウォームアップでサッカーとバスケットボール選手の怪我が減少』においても、神経筋ウォーミングアップによってケガを半減させることができると示されていますが、同運動を長時間、高頻度に行っても、それに見合う効果は得られていないようです。つまり、「やればやるほど良い」というわけではないと思われます。)
では、神経筋ウォームアップについて、具体的に説明していきます。
主なポイントは4つです。
1、漸増強化(ぜんぞうきょうか)運動
徐々に強い筋力を発揮していくことで、筋肉を覚醒させる。
競技に入ってから急に100%の力を発揮することがケガに繋がりますので、準備体操の段階で、最大筋力まで出しておくのが理想です。
はじめは軽く、徐々にレベルを上げていきます。
そして、数回、数秒でもよいので、最大強度・最大スピードまで持っていくことが大切です。
2、重心移動運動
重心をしっかりと捉えた身体さばき、方向転換時の重心移動や脚の使い方などを確認する。
重心移動を確認するため、その場だけでの体操では効果がありません。
前方や側方へジャンプし、片足着地でバランスよく制御するなど、重心移動をしながらカラダをコントロールします。
3、プライオメトリック・エクササイズ
素速い切り返しのタイミングや、瞬発力、上肢と下肢の協調性を高める。
ゆったり動く準備体操だけでは、瞬発的な動きの制御ができません。
全身を使った、ジャンプ動作などの瞬発的な動きも行うとよいです。
特にサッカーやテニスなど、切り返し動作の多い競技では、前後左右へ素速く切り返す足さばきなどを確認します。
4、バランス・エクササイズ
パフォーマンスの向上、怪我予防のため、バランス能力を高める。
最も神経系が活性化するのは、バランス運動です。
両足で立っている時には気づかないバランスのズレも、片足立ちでバランスをとるだけで修正できます。
準備体操のうちに、バランスが崩れそうになる感覚、そしてバランスが崩れるのを制御する感覚を経験しておくとよいです。
そのため、簡単にできるバランス運動より、やや難しいバランス運動がおすすめです。
以上4つがポイントとなりますが、これから行う競技で主に使う筋肉に焦点を当て、可能であれば、競技で行う動作と同じようなフォームで行うとなお良いです。
専門用語もあり、文章で読むとややこしく感じるかもしれませんが、やることは結構シンプルです。
例えば、野球でボールを投げるのであれば、初めは半分以下の力で投げ、次いで50%、75%、100%といった感じで投球します。そんなの当たり前ですね。
このように、徐々に強い筋力を発揮していくことで、神経系が「強く力を入れること」に慣れ、競技に入ってすぐに強力な筋力を発揮できるようになります。
力の入り具合、重心移動の感覚、バランス感覚などを意識して、自分のカラダをコントロールするために準備体操を行ってください。
また、準備体操でカラダを温めようとすると、結構な時間がかかってしまいます。
準備体操はカラダのコントロールを意識して行い、
実際のトレーニングにおいて軽いトレーニングからスタートし、徐々にカラダを温めつつ高強度のトレーニングへ移行していくことで、無駄な時間も省けると思います。
ちなみに、僕がよく行う簡単な準備体操は、ジャンプのみです。
運動会の50m走の時も、5回くらいジャンプしました。はじめは軽く、徐々に高く、最後は思いっきり。
それでもケガの発生率をゼロにすることはできないのですが、しないよりはマシです。
みなさんも(特に普段あまり運動をしていない方は)、競技前にジャンプしてみてください。転倒事故を少しは防げると思います。
さて次回は、またストレッチの話に戻ります。
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それで写真の人はジャンプしてたんですね(笑)
hironoriさん、コメントありがとうございます。
そういうことです(笑)