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直観と条件反射~偏見の構築

roof dogs

 

過去記事『直観は正しい、ただし、単純なものに限る』『恐怖に操られる心理』にて、「意思決定の大部分は直観によって行っている」と説明してきました。

では、そのヒトの行動を決定づけている“直観”は、どのようにして培われていくのでしょう?

今回は、その直観の形成を説明しつつ、「いかにして偏見が生じるのか?」を考察していきます。

 

(※生まれながらにして持っている直観もありますが、ここでは経験によって培われていく直観を中心に説明していきます)

 

これを説明するのに適しているのが、条件反射(パブロフの犬)です。

条件反射が初めて確認されたのはパブロフ博士の実験でした。

 この実験は、犬にエサを与える直前にベルの音を聞かせ、その後エサを与える、ということを続けていると、「ベルの音を聞かせるだけで唾液を垂らすようになる」というものです。

「エサを与える直前にベルの音を聞かせる」ということを“条件付け”といい、「『ベルの音』による条件付けによって『唾液分泌』という条件反射が起こった」というように表現します。

こういった条件付けはヒトにおいても簡単に生じさせることができます。

例えば、「赤いランプが点灯した直後に、目に風を吹き付ける」という条件付けをすると、 赤いランプが点灯したのを見るだけで、無意識に瞬きをしてしまうようになります。 (『赤いランプの点灯』により『瞬き』という条件反射が起こる)

他にも、ヘッドフォンとペンの例で示したようなものも条件付けにあたります。ヘッドフォンに好感を持ったときの感情が、その時に使用していたペンに条件付けされたわけです。

また、「白いうさぎのぬいぐるみに触れようとした赤ちゃんの近くで銅鑼を鳴らし、何度か脅かすうちに、そのぬいぐるみばかりか、うさぎ、ついには白いもの全般が嫌いになってしまった」というのも、条件反射と言えます。

 

このように、条件付けは、ある事象とある生理現象、(または、ある事象とある感情)を結びつけるものなのです。(上記の例で言うなれば、「ベルの音と唾液分泌」「赤いランプと瞬き」「好感度とペン」「白と不快感」が条件付けされた)

 

そしてここで間違ってはいけないのが、これは無意識に生じるようになるということです。

つまり、条件反射には「赤いランプの後には風がくるから、瞬きをしよう」という意識は全く必要としないのです。完全に無意識でも、瞬きしてしまうわけです。

そのため上記のように、一度赤いランプによって条件付けされてしまうと、「次に赤いランプが点灯しても風が来ないよ」と大脳皮質で理解していても、赤いランプを見ると瞬きしてしまうのです。(ただし、何度も風が来ない状況を繰り返していると、瞬きの条件反射は消失していく)

この条件反射が行われるのは、理性的、知的であり意識的に考えることのできる大脳皮質(新哺乳類脳)ではなく、情動や直観などが無意識に生じる皮質下(旧哺乳類脳、爬虫類脳)なのです。(新・旧哺乳類脳、爬虫類脳については『ヒトには三つの脳がある』を参照下さい)

これは、何度も経験したことや何度も思考したことは、無意識下の皮質下へと記憶されていき、その記憶によって反射が生じていると言えるでしょう。

 

そして“直観”というのは、まさにこの皮質下から生じるものであるため、条件反射の一部なのです。

(※条件反射には、ある事象によって生理現象が生じたり、身体活動としての反応が生じるものもある。それらの中で、「ある事象によってその特性や結果を推測できる」と感じるものを“直観”と表現する)

 

あなたが「この人はいい人な気がする…」といった直観を感じたなら、それは、その人に原因や理由があるからではありません。そうではなく、「過去に、似たような表情で、似たような口調で話す人物がいい人だった」という脳の記憶によって生じた条件反射なのです。

しかし、そうとは知らない”意識”は、「この人の○○なところがいい人な気がする」と理由付けを行うわけです。(『都合のいいように理由をでっち上げる脳』参照)

この、「直観を感じる対象物自体には、原因や理由がないことが多い」というところがポイントです。

全ては過去の似たような経験から、非理性的に判断しているのです。

 

ということは、偏見は、「対象物に対する現実」ではなく、「類似物に対する記憶」から生じている直観(条件反射)を基に作られたでっち上げと言えます。

では、よくある偏見の一例をみてみましょう。

あなたは過去に「パチンコ好きの友人にお金の貸し借りで問題になった」という経験がある。

そして、新たな仕事の同僚がパチンコ好きだと知る。

すると、無意識の直観によって、その同僚は「ルーズでダメなやつだ」という偏見を抱いてしまう。そしてその偏見により、その同僚と接する際に、嫌悪感が表情やしぐさとなって無意識に表れてしまう。

それによって同僚は、あなたの表情やしぐさを無意識に感じとり、共感し、無意識的にあなたに嫌悪感を感じるようになる(無意識の共感)。

したらば、同僚のあなたに対する態度が徐々に悪くなり、それを感じ取ったあなたは「やっぱりこいつは嫌なやつだ!」と偏見を現実として確証を持つようになる。

さらに、一度偏見が構築されると、それを助長する情報ばかり目につくようになり(確証バイアス)、さらに偏見は強化されていく。

それを感じ取った同僚は、さらにあなたに嫌悪感を抱くようになり…(以下繰り返し)

これが偏見による悪循環。人間関係でよく見られる現象です。

もしかしたら、今感じている「○○はこうに違いない」という認知も、理不尽で非理性的な直観(偏見)から生じたものかもしれません。

 

→前の関連記事『恐怖に操られる心理』

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