前回の記事『ゲームは人殺しを育成するか?』のつづきです。
前回は、暴力的・非道徳的ゲームによって、望まない身体記憶が刻まれてしまうという話をしましたが、今回は、正しい訓練によって、望むべき身体記憶を養おうという話になります。
前回、大きなストレスがかかると『逃走・闘争反応』が現れるということを、さらっと説明しましたが、
本当に極度のストレス状態に陥ると、通常では考えられないことが起こります。
「戦争」の心理学 人間における戦闘のメカニズム(Amazon)によると、
手足が震え、微細運動が損なわれる
口をきけなくなる
大便・小便を漏らす
時間がゆっくりに(または速く)感じられる
音が聞こえなく(または異常に大きく)なる
視野が狭くなる、焦点が合わなくなる
記憶が曖昧になる、実際には起きなかったことが起こったと誤記憶してしまう、などの様々なことが報告されています。
中でも知っておいて頂きたいのが、大便・小便を漏らすということでしょう。
9.11においても、生存者の大半が大小失禁を経験していたようですが、そういった事は不名誉のためか報道されません。
しかし、その事実を知らないでいると、自分が大便を漏らしてしまったことで、さらに気が動転し、とるべき行動をとれなくなってしまうかも知れません。
何かの災害に見舞われ、腕が折れ、血が流れ、大小便を漏らす。
そして、口がきけなくなり、手足が震え、音が聞こえなくなれば、災害による“外の状況”のみならず、“自分のおかしな状態”にも恐怖や不安を感じることでしょう。
「もう…だめだ…」と。
生死の瀬戸際では、こういった精神の萎えですら命取りになるといいます。
腕が折れ、2リットルの流血をし、感覚がおかしくなろうが、人はまだまだ動けるし、生きれるのだそうです。
著者は言います。「あきらめるな!」と。
生き残るために、土壇場で人はどうなるのか?という知識を得て、訓練によって身体に生き残る術を刻むのだと。
P.97 例えば、一度も911(日本でいう110番)にダイアルする練習をしていない子どもがいるとしよう。
その子が一人で留守番をしていて、誰かが侵入してきたとする。おびえた子どもの心拍数は220回/分にもなるだろう。
心拍数が115回/分を超えたあたりから、微細運動の能力は次第に損なわれていき、175回/分に達するころには近視野も失われる。心拍数が220回/分にも達する今、子供の命はそれまで一度も押したことのない三つのボタンを押せるかどうかにかかっているのである。
前もって練習したことがあれば、心臓が激しく動悸を打っていても、どうすればいいか指が憶えているものだ。
しかし、一度も練習したことがなかったら…
危機を脱するためには、自分に何が起こるか知り、どのように行動すべきかを学ぶことが大切です。
しかし、極度のストレス下では、知識だけでは役に立たないのです。何度も繰り返し身体に刻み込まない限り、土壇場で適切な行動を起こすことはできません。
著者はそのために、年に数回、少なくとも20回ずつ110番を押す練習をするべきだと訴えます。線(電源)を切った上で、しっかりとダイアルし、最後に「通話ボタン」を押すところまで練習する。
バカバカしいと思うかもしれませんが、110番を押したにも関わらず、「通話ボタン」を押すことを忘れたため、電話が通じないことにパニックになる人もいるのです。(もちろんこれは、その人の頭が悪いわけではない)
そしてこれと全く同じ意味合いで、避難訓練や救急救命訓練を真剣に行うべきなのだと思います。
「○○な時は△△すればよい」「◆◆な時は□□すればよい」など、知識を得ることは大切ではありますが、「知っている」ということだけでは、それを実行できるとは限りません。三つのボタンを押すという簡単なことでさえ。
実行に移すためには、頭ではなく、身体に刻み込ませる必要があるのです。
我が子が息をしていない時に、心拍数の上がらない親などいないでしょう。そういう時には、「心肺蘇生法を知っている」だけでは不十分なのです。何度も実際に練習したことでなければ、それを実行することなどできないでしょう。
救急救命講習を受ける際は、恥ずかしがらず、役者ばりに声を出して、積極的に何回も練習することをおすすめします。
そうすれば、いざという時、頭がイッてしまった時でも、身体が動いてくれるかもしれません。
正しい訓練をし、賢い身体をつくりましょう。
〜〜〜〜〜〜〜〜以下、2015/1/14追記〜〜〜〜〜〜〜〜
先日、南魚沼市にて心肺蘇生法の講習、『PUSHプロジェクト』を受講してきました。
中でも胸骨圧迫トレーニングツールである、あっぱくんはとても良かったです。
これは、正しく押せると「ピューッ」と音が鳴るのですが、最初は意外と鳴らないんです。
音が鳴らないということは、正しく押せてないわけで、
「こんなに強く押さなければならないのか!」と実感させてくれる優れものです。欲しくなりました。
そして、AEDの講習も。
AEDの使用がわずかに遅れるだけで、その蘇生率が大きく低下してしまうので、普段からどこに設置されているかを認識しておくことも大切とのことです。
しかもこのPUSHプロジェクト、子ども向けの講習もあるのだそうで、それもとても良いと思いました。
ぜひ、こういった活動が広まってほしいと思います。
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