025-768-4071

営業時間:月曜日〜土曜日
午前8:00〜12:00
午後14:00〜19:00
※受付は終了30前です

転倒事故予防運動

photo by Sten Dueland

◆運動を始める前に◆

最近の研究によると、何かを学んで行動に移すとき、その行動の意味を理解しているのといないのとでは、まるで効果が違ってくることが明らかにされています。

そしてそれは、転倒事故予防運動においても同じです。ただ動きだけ真似ても、その動きの意味を理解していないと、その運動効果は半減してしまうのです。(詳しくはこちら→『運動の基本原則』)

まずは知識を得ることからはじめましょう。

 

◆転倒事故は、あなたが感じているよりずっと危険です◆

僕たちがメディアによって見聞きする「危険因子」はいくつもあります。

その中でも、毎年必ず注意が促されているものとしては、インフルエンザと熱中症が挙げられるでしょう。インフルエンザによる死亡者は年間約150人、熱中症による死亡者は年間約760人もいます。(毎年誤差はありますが、近年の平均的な死亡者として算出しています。※厚生労働省、人口動態統計より)

では、あまり見聞きしない転倒事故による死亡者はどれくらいになるのでしょう?

下図は、インフルエンザ、熱中症、転倒事故による死亡者を比較したグラフです。

転倒事故死亡件数

転倒事故の危険性は一目瞭然だと思います。

転倒事故による死亡者は年間4000人を超えるのです。この数字は転倒時に亡くなったケースのみですが、転倒による怪我は年間100万件を超えると言われています。

また、転倒事故後には、怪我によって活動量が減少して免疫力は低下し、感情も悲観的になってしまうことが多く、認知症やうつ病の発症率、発癌率などが上昇し、結果として死亡率も大きく上昇することが明らかとなっているのです。

ということは反対に、転倒事故を予防することによる良効果は、とても大きいと言えるのではないでしょうか。

(※転倒事故後のケアにより、事故後の死亡率の上昇を防ぐことも可能です。そのポイントは悲観的にならないよう意識すること。転倒は大きな過ちではなく、ささいな出来事の一つでしかないのですから。そして、事故直後であっても、動かせる範囲で運動をすることです。手を怪我したなら足を動かす、足を怪我したなら手を動かすなど、例え怪我で入院したとしても、できることはたくさんあります。)

 

◆『転倒予防』ではなく、『転倒事故予防』◆

「転倒予防」という言葉はよく耳にしますが、僕はその使い方は根本が間違っていると考えています。

下記の研究調査を見て下さい。

転倒予防運動の参加者を長期的に追跡したところ、転倒事故はそれほど予防できていないことが判明した。しかも、転倒予防運動をすることで、「私は転ばない!」という意識が先に立ち、よろけた際に無理な体勢で踏ん張ってしまい、より重大な怪我に結びついてしまうケースもあった。

「転倒予防」では、”転倒”自体が悪いこととして刷り込まれ、「転んではいけない!」と考えるようになってしまいます。もちろん、転ばないにこしたことはありませんが、いくら運動をしても転倒する確率はそんなに変わらないのです。(運動をして活動量が増えることで、転倒するような機会も増えるため)

そしてさらに、転倒予防運動ではなく、転倒運動(ケガをしない転び方を学ぶ運動)を行った参加者の方が、その後の転倒事故を予防できることが分かったのです。

予防するべきは、“転倒”ではなく、“転倒事故”です。

「転倒は絶対によくない!」という先入観は改めるべきだと思います。

 

◆従来の転倒予防運動は間違っていた?◆

従来の転倒予防運動は腸腰筋や大腿四頭筋、前脛骨筋などの筋力トレーニングや、バランスボードなどに乗ってバランス感覚を鍛えるというものが主流でした。

しかし、ここにも大きな間違いがあったのです。

転倒事故予防において重要なのは反射神経安定した協調運動です。

協調運動というのは、文字通り、複数の筋肉による協調した運動を意味します。全身には約400個の筋肉がありますが、それらの筋肉が「ある筋群が力を入れた瞬間、ある筋群は力を抜く」といったように協調的に働かなければ、身体をスムーズに動かすことはできません。

この協調運動が損なわれると、個々の筋力がいくら強くても、速く歩いたり走ったりすることが困難になり、すぐに転倒してしまいます。

研究によると、多くの高齢者は、個々の筋力はそこそこあることが示されており、主に損なわれているのは協調運動だということが判明しているのです。

 

そして、協調運動がもっとも損なわれる状況は”パニック”です。

人はつまづくと、「バランスを崩した!危険だ!」と一瞬パニックになります。すると協調運動ができなくなり、足がうまく出なくなるのです。

足を一歩前に踏み出すには、大腿四頭筋(膝を伸ばす筋肉)は力を緩め、大腿二頭筋(足を曲げる筋肉)に力を入れ…といったように、力を入れる筋群と、力を緩める筋群とがバランスよく協調して足を持ち上げなければなりません。

しかし、パニックになると、協調性は崩れて過度に緊張し、ほとんど全ての筋肉に力が入った状況になってしまうのです。すると足が持ち上がらず、そのまま(足を伸ばしたまま)転倒してしまうわけです。そしてこれは、協調運動の能力が衰えている人ならなおさらです。

大腿四頭筋の単独トレーニングは、確かに大腿四頭筋を強くできます。しかし、そういったトレーニングばかりしていると、場合によっては協調運動を妨げてしまいます。

そして、バランスボードによるトレーニングも、上手くなるのは「バランスボードに乗ること」だけであって、実際のいざ!という時のトレーニングにはならないと言われているのです。(詳しくはこちら→『運動の基本原則』)

 

では協調運動を強化し、パニックになっても対処できるような、本当の意味で転倒事故を予防するにはどうすればよいのでしょう?

 

◆効果的な転倒事故予防運動とは?◆

「ピアノで○○曲を弾けるようになりたい」としたら、その○○曲の楽譜をなぞって練習しなければなりません。

指の筋力トレーニングや、練習曲ばかりしていても、その結果は「指の筋力アップ」と「練習曲を上手に弾ける」ことだけでしょう。

実際に○○曲を弾けるようになりたければ、その○○曲を練習する以外にありません。

 

これは転倒事故予防でも同じことが言えます。

 

筋力トレーニングや、バランスボードで練習していても、その結果は「筋力アップ」と「バランスボードに上手に乗ること」になってしまう。それでは、実際に転倒を予防するには不十分なのです。

もっと重要なことは、不意にバランスを崩した際に、体勢を立て直す練習です。

そして、不意にバランスを崩した際に、上手に転ぶ練習なのです。

 

◆具体的な運動方法◆

この運動は、指導者が運動者の後ろから両肩をしっかり支えた状態で始めます。

そして、指導者が左右に押して(どちらに押すのかは分からないように)、運動者は押された力に対し、バランスを立て直すように足を踏み出し体勢を整えます。

単純なようですが、この効果は絶大です。

まず、いつ、どちらに押されるか分からない状況ですから、反射神経が鍛えられます。

そして、「突然バランスが崩れる」という状況を何度もトレーニングすることで、「いざ!」という時のパニックを最小限に抑えられるようになってきます。

また、この体勢を整えるという一連の動作は、実は複雑な協調運動であるため、この運動をしていれば協調性も鍛えられます。

結果として、バランスを崩した時の最初の一歩が「スッ」と出るようになるのです。

 

実際にこの運動を行った89歳のIさん(女性。千葉県在住。僕が東京の整骨院で働いていた時に、腰痛で往診していた患者さんです)は、腰痛が発症するずっと前から、足元がふらふらして外出もできないくらい歩くのが困難になっていました。しかし、ケガの処置と並行して運動を指導することで、一人で外出し、散歩ができるようになったのです。

それもたったの3週間の運動で。

 

もちろんこれは一例にすぎませんが、90~100歳という高齢でも、こういった運動により足取りがしっかりとして健康になることはいくつもの研究で明らかとなっています。

しかし、この運動は安易に行ってはいけません。一歩間違うと(本当に”一歩”を間違えると)、運動中にケガを負わせてしまう可能性があります。運動者の能力に合わせ、軽度な運動からはじめ、指導者は運動者以上に集中して行わなければなりません。

 

そして、こういった動作を習得するのは、そんなに簡単なことではありません。

「いざ!」という時に無意識に体が動くように訓練するには、長期的な反復練習以外にありません。「こう押されたら、足をこう出して…」なんて頭で考えているようでは、まだまだ”習得した”とは言えないのです。

繰り返し、繰り返し、文字通り身体に染み込ませるまで練習し、「押されたら身体が勝手に体勢を整える」となるように、徹底的に反復練習します。

 

これは体勢を立て直す練習ですが、他にも上手に転ぶ練習や、持久力を高め、正しくしっかりと歩くための運動など、いくつかの運動を並行して行っていきます。

また、これらの運動には、大腿四頭筋や腸腰筋などの筋力アップの効果もありますので、あえて単独の筋力トレーニングは行いません。

無駄をできるだけ省いて、少ない時間で最大の効果が得られるような運動を、個人個人の能力に合わせて指導していきます。

 

◆転倒事故予防運動の対象年齢は?◆

以上の話からすると、この運動は高齢者向けの運動のように思われるかもしれませんが、中高年者でも若者でも、子どもでも効果的な運動なのです。

近年は特に、上手に転べない子どもや、運動不足の子どもが多くなっており、それによる様々な悪影響(運動能力の低下だけでなく、脳の発達障害、若年性の糖尿病など生活習慣病の増加…)が社会問題の一つとなってきています。

やさしい運動からはじめ、上達度に合わせて徐々にレベルアップしていきますので、健康増進、怪我予防に、ぜひお気軽にご参加下さい。

 

運動教室

コラム一覧(その他の運動内容)

 

“転倒事故予防運動” への2件のフィードバック

  1. この記事、読み落としてたんだけど、「ぎゃー」と叫びたくなるほど衝撃的で目から鱗。
    転びかたのトレーニングが出来たらそれが一番だよな・・とは思ってたけど、高齢者に前回り受身させるわけにもいかないし、でも転倒予防教室の方向性が見えた気がします。

    1. 僕が指導したいと思っている運動はぜんぜん一般的ではないので、すんなりとは理解し難いのでは?と思い、
      できるだけ根本の原理まで理解してもらえるようにと試行錯誤して記事にしたんです。

      院長にそう言っていただけて嬉しいです!

      最初にデモンストレーションで「高齢者が転んで大腿骨頚部骨折をする時の転び方」をハデに見せるのですが(どしーん!と)、その後に正しいバランスのとり方や転び方を見せると「なるほど!」と頷いてくれます。
      人に伝わるのって、気持ちよいです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。