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運動の基本原則~上達度の法則『べき乗則』~

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『運動の基本原則〜練習効果を最大限に引き出すコツ〜』

『運動の基本原則〜効果的な筋力増強運動〜』のつづきです。

 

さまざまな学習の上達度は、べき乗則に従うことが明らかとなってきています。

このべき乗則というのは、人間の、というか世界の、というか宇宙の鉄則であり、その奥深さには畏敬の念を抱くほどです。

 

さて、まず、べき乗則を説明する前に、正規分布について理解する必要があります。

正規分布というのは、身長や体重、体力測定の値、学力など、平均値が存在する分布図です。

身長を例にとりますと、日本人男性の平均身長は約170cm。これは170cmくらいの人が一番たくさんいて、160cmや180cmくらいの人はそれより少なく、150cmや190cmくらいの人はそれよりもっと少ない…、というように分布しています。

そしてこの、身長の高さ(横軸)と、その身長の人の数(縦軸)をグラフにすると下図のようになります。

正規分布

これが正規分布のグラフであり、体重も、体力測定の値や学力においても、似たような曲線を描くグラフになります。

ちなみに多くの人にとっては、この正規分布が「世の中の法則」として頭に染みついているようです。

もしかしたらあなたも、年収や、株価の変動や、映画の収入や芸能人の人気度などに、平均的な値が存在すると考えているのではないでしょうか?

 

では、年収の高さを横軸にし、その年収の人の数を縦軸にしたものをグラフで表してみましょう。

べき乗則

どうでしょう。正規分布とは全く違ったグラフになりました。

もちろん多少の波はあるのですが、これは本当に直線的になるのです。

しかもこれは、日本でもアメリカでも、発展途上国でも同じような直線を描くのですから不思議です(違うのはそのスケールだけです)。

収入の少ない人が一番たくさんいて、収入が上がるにつれ人数は減っていき、超高収入の人はとても少ない。そしてそこには平均値というものが存在しません。

平均値が意味を成すのは、平均的な値を示す人が一番たくさんいるケース(正規分布になるケース)のみなのです。

よくメディアなどで「30代の平均年収は…」なんてことを題材にしていますが、年収というのは、そもそも平均値が存在しないものなので、平均値を求める意味などないのです(その数字に惑わされる必要はないということ)。

こういった、平均値が存在せず、上図のように直線的に分布するような法則をべき乗則といいます。

ではここで、べき乗則に従うものの例を挙げていってみましょう。

  • 株価の変動(変動の大きさを横軸、その変動の発生頻度を縦軸)
  • 映画の収入(収入の高さを横軸、その収入の作品数を縦軸)
  • 芸能人の人気度(人気度の高さを横軸、その人気度の芸能人数を縦軸)
  • 木の枝(枝の太さを横軸、その太さの枝の数を縦軸)
  • 地震(地震の大きさを横軸、その発生頻度を縦軸)
  • 津波(津波の大きさを横軸、その発生頻度を縦軸)
  • 森林火災(火災によって焼かれる面積を横軸、その頻度を縦軸)
  • 都市の人口(人口の多さを横軸、その人口の都市の数を縦軸)
  • 争い(争いの規模を横軸、その頻度を縦軸)
  • 脳波の変動(変動の大きさを横軸、その頻度を縦軸)
  • ニューロンの発火(同時に発火する数を横軸、その頻度を縦軸)
  • TwitterやFacebook(繋がる人数の多さを横軸、その繋がりを持つユーザー数を縦軸)
  • サイトのリンク(リンクの数を横軸、そのリンクを持つサイト数を縦軸)
  • 星団(従える星の数を横軸、その星の数を持つ星団数を縦軸)

    等々…

挙げればきりがありません。

自然、経済、災害、社会だけでなく、個人レベルでもべき乗則に従って行動しているのです。

僕が、何にも意識せずに使っているパソコン内のフォルダのデータ量までべき乗則に従っているのですから、にわかには信じがたいです。

これで、冒頭にて「べき乗則は宇宙の鉄則」と表現した意味が伝わったでしょうか。

 

べき乗則の特徴として面白いのは、「スケールフリー」という構造にあります。

例えば株価は、秒単位のチャートでも、分単位のチャートでも、時間単位や年単位でも、どれも同じように”見える”のです。

スケールが違っても、同じように上がったり下がったりという波があるわけです。大きい波の中に、少し小さな波があり、その小さな波の中にさらに小さな波があり…という構造です。

 

さらにもう一つ、予測不能だというのも特徴の一つでしょう。

株価で言えば、「どの企業の株が上がるのか?」

感染症で言えば、「今年の流行はどれくらいになるか?」

地震で言えば、「次にくる大地震はいつになるのか?」

べき乗則に従うこれらの事象は、予測不能。すべては、”たまたま”なのです。

 

クリスマスに雪が降るのもたまたま、それと同じ意味で、リーマンショックが起きたのもたまたま、第二次世界大戦が起きたのもたまたま、ある芸能人がブレイクしたのもたまたま、僕の年収が○○円なのもたまたま、なのです。(さまざまな評論家たちが、「これは○○な政策だからこうなったんだ!」と論じていますが、突き詰めると”たまたま”です)

こんな説明だけでは理解し難いかと思いますが、詳しい説明を書き始めると、本一冊分くらいになってしまうので、もっと知りたい方は『歴史は「べき乗則」で動く~種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学~』 をお読みください。おすすめの本です。

 

 さて、かなり簡単に概要を説明しただけなのですが、「べき乗則がこの世のあらゆることに当てはまり、その特徴はスケールフリー予測不能ということだけでも頭に入れておいて下さい。

 

それでは、ここからようやく運動の上達度の話に入ります。

 

あ、でもその前に、折り紙の話をします。

東京工業大学名誉教授の木村泉氏は、練習量と上達の関係を定量的に評価したいと考え、大量の折り紙を自分で折るのに要する時間を計ることによって、その関係について考察した(WIRED VISIONより)。

この研究はすばらしいです。難解な折り紙(「みそさざい」という折り紙作品)を一回折るのにかかった時間を計測し、

一回目は○○秒、二回目は少し上達して○○秒、三回目は○○秒…と、15万回も折ったのです。ものすごい根気。

何度も同じ折り紙を作るうちに、上達して製作時間は短縮していきます。そしてその上達度をグラフで表したのが下図です。

べき乗則(折り紙の上達度)

見事なべき乗則です。

これは、何かを学習し、反復練習による上達度の法則はべき乗則に従うという証拠の一つでしょう。

そしてご想像の通り、運動の上達度も、同じようにべき乗則に従うのです。

 

では、上図を詳しく見てみましょう。

横軸の数字は、1、2、3、4、5…ではなく、1、10、100、1000、10000…と対数になっています。

つまり、直線的に上達するのは、”対数において”なのです。

簡単に説明すると、先の折り紙の上達度は、10回折ることによって上手くなった上達度から、さらに二倍上達するには、10×10の100回折る必要があるということになります(10×2ではない!)。そして、100回折った上達度から、さらに二倍上達するには100×100の10000回折る必要がある。

これは、「練習をたくさんし、上達すればするほど、さらなる上達は実感しにくい」ということになります。

 

また、その上達過程は決して直線的ではなく、波があります。

上図ではあまり細かいところまで分かりませんが、大きな波の中に、小さな波があり、その小さな波の中にさらに小さな波が存在します。

運動をしていても、「さっきは失敗したけど、今はうまくできた」とか、「昨日は調子が良かったが、今日は悪い…」といった感覚の波は、細かく言えば数秒単位の小さな波から、数年単位といった大きな波が存在します。そこにはスケールフリーの波があるわけです。

そしてその”波”の長期的な下降時を、一般的に”スランプ”と表現しているようです。

上図の10000回~20000回くらいのところを見て下さい。全然上達していません。むしろ徐々にタイムが悪くなっています。

ちょっとリアルに想像してみて下さい。

今まで何かを一年間練習して上達を実感できていたとします。しかし次の一年間は、昨年と同じ練習量をこなしているにも関わらず、昨年の自己記録よりむしろ悪くなっていく、ということになります。

これでは、もう諦めたくなるかもしれません「私の実力はこれで限界なのだ…」と。

しかし、宇宙の鉄則である”べき乗則”は、練習を続ければ、飛躍的な上達の波がくることを保証しているのです(その後の記録の伸びを見て下さい!)。

 

さらに、べき乗則の特徴に予測不能というものがありました。

これは、「”上達の波”や、”スランプの波”がいつ来るのかを予測できない」ということです。

そしてこれが重要なのですが、「その”波”には意味などない」ということでもあります。すべては”たまたま”なのです。

人は、あらゆることに理由をつけたがります。

「今日調子が悪いのは、昨日夜更かししかたらだ…」「○○選手が今シーズン調子が悪いのは、監督の使い方が悪いからだ…」

など、後付けの理由付けをしたくなるのが人の心情です。

そして、これはスランプの時ほど、あれこれ考え過ぎるようになり、わけのわからない練習をしみたり、願掛けをしてみたり、必要のないところにお金や時間をかけたりしてしまうようになります。

しかし、これは自然の摂理であり、単純に練習を続ければ脱することができるものなのです。

 

とはいえ、モチベーションが低下して、練習に身が入らなくなると、べき乗則に従った上達度からは逸脱し、本当に下手くそになってしまう可能性があります。実際、モチベーションが低下してしまったり、感情の起伏が大きい人は、同じ練習量でも上達が遅いことが分かっています。

 

では最後に、僕のゴルフのスコアをグラフにしたものを一例としてお見せします。

練習時間が横軸、その練習時間の時にコースに出た際のスコアを記しています。

ゴルフスコア

どうでしょう。

今年の四月から始めたばかりなので、データとしてはまだまだ駆け出しに過ぎませんが、べき乗則に従っていると言えるのではないでしょうか。

そして、ここから計算すると、「来シーズンのスコアの平均は、今年の後半とほとんど変わらない」ということになります。

もし、べき乗則を知らなければ、「今年もたくさん練習したのに全然上達しなかったな…」なんて思ってモチベーションが下がってしまうのでしょうが、僕はそうはなりません。

なぜなら、知っているから。

 

この、べき乗則を知り、

「調子が良い時があるのも、悪い時があるのも当たり前。なかなか上達しないのも当たり前。そこには悩む理由なんてない。練習を続ければ必ず上達していく」

という自然の摂理を知る。それがモチベーションを維持する手助けになるのでは、と考えています。

練習しても伸び悩んでいる全ての人に、このべき乗則を知ってもらいたいです。

 

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