photo by Mark Warner
あなたの遺伝子は、あなたの幸せなど望んでいない。
進化が押し進めてきた生物の最大の目的は、遺伝子を広めること(より多くの子孫を残すこと)にあります。
ある個体が、例え最高に幸せな生涯を送ろうとも、子孫を広めることができなければ、その遺伝子は死滅していきます。一方、個体が不幸であったとしても、子孫を広めることが巧みであれば、その遺伝子は永続します。
つまり、『遺伝子を広める』という目的からしたら、個体が幸せかどうかなんてどうでもよいのです。
「幸せになること」と「遺伝子を永続させること」はイコールにはならないのですから。
よって、進化によって遺伝子にプログラムされていることは、あなたを幸せにすることではなく、あなたの遺伝子を永続させるように思考を操作することなのです。
ではそれは、どんな思考なのでしょうか?
ひと言で言うなら、「今より幸せになりたい」という思考です。
この思考回路は、元をたどるとネガティブ感情とポジティブ感情の2つから生じているのがわかります。
そこでまず、今回の記事では、その2つの感情について説明していきたいと思います。
■ネガティブ感情とポジティブ感情
心理学者ポール・エクマンは、世界各地で調査した結果、全世界で共通する基本的な感情を見出しました。それは以下の六つです。
『恐れ』『怒り』『悲しみ』『嫌悪』『驚き』『喜び』
これらは、脳内でそれぞれ独自のプロセスをもって反応する回路を持ちます。
まず注目すべき ところは、これら六つの感情のうち、ポジティブ感情がたったの一つ(喜び)で、四つがネガティブ感情(恐れ、怒り、悲しみ、嫌悪)だということでしょう。(『驚き』はどちらにもなりえる。)
人間は、ポジティブ感情よりも、ネガティブ感情に支配される傾向にあるのです。
これはただ単に数が多いというだけではなく、それぞれの特徴の違いにも原因があります。
◆ポジティブ感情とは?◆
ポジティブ感情の源は、実にさまざまです。
最近の研究によると、その主要なものは、友人との交流、飲食、性交渉、それになんらかの分野での成功体験のようです。
進化心理学の見地からすれば、これらの事柄はすべて、祖先たちの時代に適応度を高める(子孫の繁栄に有利な)出来事だったはずであり、ほかの心配事は置いておいても、一時的に時間を割くだけの価値があったものばかりです。
そしてこのポジティブ感情は、どれも一過性のものであり、すぐに薄れていくという特徴があります。
例えば、獲物を捕らえ、食し、喜びを得たとします。しかし、その喜びがずっと続いてしまったとしたらどうなるでしょう?
その満足感が続く限り、次の行動へ移る気は起こらないでしょう。いずれ必ず、空腹になり、疲労し、敵を避けねばならない必要にせまられるのに…。
つまり、喜びは達成されたらすぐに背景へと押しやられ、ほかのプログラム(もっと獲物を捕らえたい、敵への対処法を考えるなど)が、わたしたちの関心を引くように仕向けるようにできているのです。
◆ネガティブ感情とは?◆
ネガティブ感情の四つは、そのすべてに状況タイプと解決方法が分類されます。
一つ一つを考察すると、下記のようになります。
- 『恐れ』…危険の継続的存在などに対し恐れる。恐れによって、察知して逃げようとする。
- 『怒り』…他者による規制や取り決めによる侵害などに怒りを感じる。怒りによって、侵害の再発を防ぐ。
- 『悲しみ』…大切な支えとなるものの喪失などに悲しみを感じる。悲しみによって、活動量を減らしてエネルギーを蓄え、状況が改善されるまで慎重に進む。
- 『嫌悪』…食物汚染の可能性などに嫌悪を感じる。嫌悪によって、拒絶し、今後はさける。
これらのネガティブ感情も、ポジティブ感情と同様に生まれながらに備わっているものです。そしてそのどれをとっても、些細なことで検知され、状況が改善されるまで持続する傾向にあります。
それは、適応度を高める(生き残り、子孫を残す)のにとても重要なことなのです。
あらゆる生物を観察することでもよく分かるのですが、自然環境の厳しさからすると、快を求めることよりも、不快をさけることの方がずっと重要なのです。
そのため、ネガティブ感情はポジティブ感情よりも検知されやすく、持続しやすいのだと考えられています。
例えば、シマウマを狩るライオンを想像してみて下さい。
快を求めるライオンは、疲れれば走るのを止めます。身体を酷使してまで、ケガをしてまで追うことはしないのです。
一方シマウマは、それこそ死ぬ気で逃げます。
息切れしようが、足を怪我しようが、はたまた素敵な異性を目にしようが、危険が去るまで全力を尽くすでしょう。
これは当たり前のようですが、ヒト心理を探る上でも重要なことです。
石器時代、わたしたちの祖先は、大型のネコ科動物、大型のワシ、クマ、オオカミ、ヘビ、ワニ、サメ…などに狩られる危険性がありました。
古生物学の証拠からは、ヒト科もヒヒのような霊長類も、古代の捕食者に常習的に食べられていたという推論が裏付けられる。『ヒトは食べられて進化した』より
さらに、近隣の他部族の侵攻や(チンパンジーなどの類人猿にも部族間戦争や殺戮がある)、伝染病などによって危険に晒されることも多々あったことが分かっています。
とはいえ現代社会(特に先進国)では、上記のような危険はほとんどありません。
しかし、長い進化の歴史によって脳に組み込まれた思考回路は、“ネガティブ感情”の基を常に探し求めるようにできています。
そのため、複雑化した社会生活に対して(大した危機でもないのに!)反応し、解消されることのない恐れや怒り、嫌悪といった感情が、持続的ストレスとなって身にふりかかるのです。
そしてそれは、自分の身の回りだけでなく、
ネットやテレビなどのメディアを通じて、世界中の危険に対し恐れを感じてしまうのですから、もう大変です。(過去記事『恐怖に操られる心理』参照)
先程も書きましたが、
人類の歴史、自然環境の厳しさからすると、快を求めることよりも、不快をさけることの方がずっと重要でした。
「ポジティブ感情よりも、ネガティブ感情に支配されやすい」というのはもはや明白なのです。
そして、これが重要なポイントなのですが、ネガティブ感情に支配されやすいということは、「より多くの子孫を残す」という観点からすると大変有益だが、一個体にとっては不快で不幸で、不健康なものでしかないということです。
ネガティブ感情に支配されながら、穏やかで幸せな生活を送れるわけがありません。
これは逆に言うと、こういったネガティブ感情に支配されやすい思考癖を改善できれば、安寧の生活に近づけると言えるのだと思います。
さて次回は、人間の比較思考について考察していきます。
(※この記事は、2012/3/21の記事をリメイクしたものです)
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