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都合のいいように理由をでっち上げる脳

Brain Divided

「今の仕事を選んだ理由は…」「あの人に付き添う理由は…」「ツイッターでつぶやく理由は…」

それらは自分で考え、自分なりの理由があった上で行動しているのだと、そこには確固たる意志があるのだとヒトは自覚しています。

しかし、大部分の行動の決定は意識に上ることなく行われており、その行動を起こした理由など、後付けのでっち上げであることがほとんどなのです。(これは、『吊り橋効果』『ロミオ&ジュリエット効果』でも同様でした)

今回は、それを裏付ける、大変興味深い研究をいくつか紹介します。

 

最初に紹介するのは、分離脳の研究です。

分離脳とは、左右の大脳を繋ぐ脳梁を切断し、文字通り右脳と左脳に分断された脳のこと。 (脳梁の切断は、てんかん発作を抑えるために行われる手術治療です。恐ろしく感じるかもしれませんが、発作はかなり治まりますし、日常生活にさほど悪影響のない手術のようです)

まず、脳にはある特徴があります。右脳も左脳も、体感した事象を意識下で(無意識に)認識することができますが、 それを意識上まで上らせ、 「○○した」などと言語化することができるのは”左脳だけ”なのです。

これを前提に実験を見てみましょう。

分離脳の被験者にヘッドフォンをさせ椅子に座らせます。 そして左耳(アプローチするのは右脳)に、「立って下さい」と指示を出します。 すると、右脳は意識下では(無意識に)その指示を認識することができるため、被験者は立ち上がるのです。

そして今度は右耳(アプローチするのは、言語化できる左脳)に「なぜ立ち上がったのですか?」と質問します。 すると、「座りっぱなしで疲れたから立ち上がった」と答えたのです。

右脳で受けた指示は、意識まで上ることがないため、 被験者は「立って下さい」と言われたことは全く理解していません。

しかし実際は、指示を受けたから立ち上がったハズ。 でも、何のためらいもなく「疲れたから」と、理由を作り上げたわけです。

これは、被験者が嘘をついているわけではない事に注意して下さい。 本人は、本当に、「疲れたから」と思っているのですから。

 

次は、海馬に損傷のある人の話です。

海馬は、大脳辺縁系の一部で、記憶や空間学習能力に関わる領域ですので、ここを損傷すると物事を意識的に記憶できず、体験したこともすぐに忘れてしまうのです。

この海馬を損傷した人に、実験者が握手を求めます。 この時、実験者は手に感電ショックの刺激装置をかくしておき、握手の瞬間にビリッ!とさせるわけです。

そんなことをされたのですから、その場では怒ります。「なにすんだ!」と。 しかし、それもすぐに忘れてしまうのです。

そして翌日、実験者が再び握手を求めます。 すると、握手しようとしないのです。昨日の「ビリッ!」は忘れているはずなのに。

そこで、どうして握手しないのか?と尋ねると、 「私、さっきトイレに行って、手を洗わなかったから…」と答えたのです。

握手をしたくないという情動は、大脳皮質ではなく、もっと深いところからきます(『ヒトには三つの脳がある』を参照)。 情動があるにも関わらず、その理由となる記憶がないから、テキトウな理由をでっち上げたのです。 (これもまた、本人は嘘をついているつもりなど全くないということに注意してください)

 

次は一般人を対象とした実験です。

被験者に数枚の女性の写真を見せ、どの女性が一番美しいと思うか?と、一人の女性を選択させます。

そして、選ばせた後、
実験者(一流のマジシャン)は、被験者が選んだ女性の写真をすり替え、別の女性の写真をテーブルの上に一枚だけ残し、 「なぜこの女性が一番美しいと思ったのですか?」 と質問するのです。

今、このブログを読んでいるあなたは、 いくらすり替えが巧みだとしても、選んだ女性とは別の女性になっているのですから、 被験者が「私が選んだのはこの女性ではありません。」と言うのではないか? と思われたかも知れません。

しかし、実際はそうではないのです。

被験者のほとんどは、自分が選んだ女性とは違う女性だということには全く気付かず、 目の前の写真を見ながら、美しいポイントについて答え始めるのです。

そう、あたかも、初めから自分が選んだ女性であるかのように。

 

上記の例はほんの一部に過ぎず、こういった研究は数多くあります。そして、すべて同様の結論に至っているのです。

脳について知れば知るほど、ヒトの行動や思考の多くは、無意識に(そして、非論理的に)決められているのだと強く感じます。

そしてその、無意識によって行動したことを、後から「はじめからそうするつもりでしたよ。熟慮した結果ですよ」と理由をでっち上げる。それがヒトなのですね。

 

→次の記事『好き嫌いは、環境によって作られる』

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“都合のいいように理由をでっち上げる脳” への 2 件のフィードバック

  1. あなたの結論の理由として正しいのは引用された三つの実験のうち最後のものだけです。先の二つは逆半球の記憶にアクセス出来ないから、また海馬損傷で記憶自体存在しないから、当時理由付きで思考したか否かに関わらず、理由の想起に失敗しているだけであり、思考に理由が付随したかどうか(直感かどうか)に関係はありません。

    1. コメントありがとうございます。
      (^ω^)
      外見川流繰さんのようなご意見もあるのですね。

      おそらく、僕が『理由のでっち上げ』の定義を曖昧にしていていたため、そう感じたのかもしれません。

      僕にとっての『理由をでっち上げる』というのは、
      当時理由付きで思考していたことと違う理由を作り上げることだけでなく、
      無意識のうちに行動したことの理由付けや、きちんとあった理由が記憶から消えているケースなどの、後付けの理由付けも含まれています。

      なので、
      理由の想起に失敗しているにも関わらず、後から「座っているのが疲れたから」という理由を話すことが、理由を後付けででっち上げたのだと思いました。
      (`д´;)

      この記事は、主に池谷裕二氏の『脳は何かと言い訳する』
      を参考に書いたものですので、もう一度本を読み直してみます。

      ご指摘ありがとうございました。

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