前回記事、
『脳を鍛える!子どもの体力づくり(1/4)』
『脳を鍛える!子どもの体力づくり(2/4)』のつづき。
今回は、
②現代っ子に足りない体力とは?
◆手の筋骨が弱く、運動神経系も鈍い
についてです。(講演資料↓)
現代っ子は、昔と比べると、
バランスを崩した時に、瞬時に反応することができない。
手で体重を支えようとしても、手の筋骨が弱くて支えられない。
という傾向にあるようです。
これは、平均的にそうなったというより、
筋骨が強く、運動神経が発達している子と、そうでない子とに両極化している(そして弱い子の方が多い)と考えられています。
そのせいで、ちょっと転んだだけで骨折をしたり、「そんなことでケガをしたの?」と思ってしまうような事で、ケガをしてしまうのです。
では、なぜそうなってしまうのでしょう?
その原因は、子どもの成長過程や遊びにあると考えられています。
まず、ハイハイ。
赤ちゃんがハイハイをするのも、成長の過程では重要なことだと思いますが、
どうも、「すぐに立って歩くのがいい」みたいなところがある気がします。
首がすわるのも、ハイハイするのも、歩くのも、おむつが取れるのも、しゃべり始めるのも、「早いとすごい」みたいな風潮があるように思うのです。
同じ理由で、「うちの子はまだ〇〇ができなくて…」なんて悩みを持つ親御さんも多いように感じます。
そんな風潮からか、ハイハイから歩行への移行を促す歩行器が売れ、親も早く歩けるようになることを期待します。
そして、ハイハイをあまりしないまま成長した結果、手の弱さや、背筋の弱さなどに繋がってしまうようなのです。
そして幼少期になると、“遊び”がその後のケガと大きく関係しているようです。
一昔前までは、いわゆるアスレチックのような遊びが多かったように思います。
実際、僕が子供の頃は、木登りをしたり、川遊びをしたり、崖をよじ登ったりと、ちょっと危険な遊びをしていました。
近所の公園にも、もっと色んな遊具(ちょっと危険な遊具)がありましたし、もう少し「これはやっちゃだめ!」という規制が緩かったように思います。
でも現在は、ケガや事故といったリスクを回避するために、やってはいけないことがとても増えたようです。
もちろん、リスク回避は大切なのですが、リスクというのは、完全に回避できるものではなく、トレードオフのような関係にあるということを、知っておく必要があると思うのです。
ちょっとそれを説明するために、9.11テロ事件の話をします。
9.11テロによって人々に植え付けられたのは、テロの恐怖だけでなく、「飛行機への恐怖」でした。
そして、飛行機の利用頻度が激減したのです。
その点に着目して、ある心理学者がリスク回避に関する、とても興味深い研究をしました。
テロの後、アメリカでは飛行機の利用が減ったのと同時に、自動車の利用頻度が激増した。
それは約1年間続いて、その後はテロ以前と同じ飛行機と自動車の利用頻度へ落ち着いた。
ここで注目したいのは、飛行機事故のリスクを回避して、自動車事故のリスクへとトレードオフをしたということです。飛行機事故のリスクをゼロにしたとはいっても、リスクそのものをゼロにできたわけではないのです。
では、このリスクのトレードオフによって何が起こったのでしょう?
テロ後の1年間で、飛行機から自動車への切り替えの結果として、自動車事故で亡くなった人の数は、1595人だった。
この数は、過去の自動車事故死の数、飛行機事故死の数を綿密に計算して出された数字です。テロ後も、今まで通りの飛行機利用を続けていたなら、ゼロだったはずの数なのです。
その死亡者数は、9.11の飛行機に乗っていて亡くなった乗客の数の6倍にも及びます。
つまり、飛行機事故のリスクを回避したつもりが、自動車事故のリスクを増加させていたのです。
この、「リスクを回避したつもりが、実は別の場所でのリスクを増大させる」というのは、運動やスポーツ、日常生活でもよくあることです。
例えば、僕は子どもには木登りなどのアスレチックをさせるのがよいと考えているのですが、「木登りをして落ちたら危ない!」と、リスクを回避するという考え方もあるでしょう。
でもそれは、木登りで身につけるような、体幹のボディーバランスや、手を使って身体を支える動作、自分で危険を回避する能力を鍛える場を奪うことにもなります。
危険なことは全て親が取り除いてあげることで、
子どもは、自分の身体の色々な使い方や、自分の知恵で危険を回避することを学べなくなるのです。
そのせいで、「え?そんなことでケガしちゃったの?」ということが起きるのだと思います。
もちろん、命の危険を伴うようなものは、きちんと管理すべきでしょうが、リスク回避に過剰になるのも、別のリスクを増大させているかもしれないのです。
運動には、どんなやり方をしても、ケガというリスクがあるものです。
最適なリスク管理というのは、とてもとても難しい問題ですが、
僕自身も、一つの状況だけで判断するのではなく、長い目で判断していけるように、子どもを見守っていければと考えています。
また大げさな話になってしまいましたが、まとめると、
ケガのリスクを回避しようと、ちょっと危険な遊びをしなくなったせいで、反射神経やバランス感覚、腕の強さが失われて、ちょっとしたことで起きる不思議なケガが増えているのです。
では、そういった弱い部分を鍛えて、脳にも身体にもよい体力づくりはどんな運動なのか?ということについて、次回説明していきます。
続き→『脳を鍛える!子どもの体力づくり(4/4)』(1/7更新予定)