025-768-4071

営業時間:月曜日〜土曜日
午前8:00〜12:00
午後14:00〜19:00
※受付は終了30前です

特性5因子 〜自制する人〜『誠実性』

Texas Hold'em

※特性5因子診断をされていない方は、先に→コチラ←で診断をしてから読むことをおすすめします。

 

『誠実性』

アイオワ課題と呼ばれるものがある。

自分が今、金をかけてカード・ゲームをしていると想像してほしい。

目の前のテーブルには四組のカードが裏返しに置かれている。あなたは好きな組を選び、そこからカードを順繰りに取っていく。カードを取るたび、現金が手に入る。
だが時々、取ったカードによっては、罰金を支払わなければならなくなる。罰金は報酬金額よりも多いこともあるから、カードによっては、前よりも手持ちの金は少なくなることもありえる。

アイオワ課題に使われる四組のカードには、報酬と罰金の額と割合の違いがあります。

A組のカードは、報酬が100ドルであり、1/10の割合で1250ドルの罰金カードに当たります。
B組のカードは、報酬が100ドルであり、1/4の割合で500ドルの罰金カードにぶち当たる。

C組のカードは、報酬が50ドルであり、1/10の割合で250ドルの罰金。
D組のカードは、報酬が50ドルであり、1/4の割合で100ドルの罰金となります。

これらのカードを十枚引く時の期待額を計算すると、
A組は報酬100×10=1000ドル、罰金1250ドルで、差し引き250ドルのマイナスとなり、
B組は報酬100×10=1000ドル、罰金500×2.5=1250ドルで、差し引き250ドルのマイナスになる。

C組は報酬50×10=500ドル、罰金250ドルで、差し引き250ドルのプラスになり、
D組は報酬50×10=500ドル、罰金100×2.5=250ドルで、差し引き250ドルのプラスとなります。

 ボランティアの被験者たちは、最初のうちはABCD、いろいろな組を試してみる。

詳細は教えられていないため、試行錯誤で得になる組を見つけ出さなくてはならないのだ。だが、AとBとを試して数回罰金カードにぶち当たった段階で、彼らはこの二組を避けて、利益が出るCとDを引くようになる。

100回引いた段階では、CとDから引いた場合と、AとBから引いた場合とでは、相当な差が出ているだろう。

このアイオワ課題が心理学的に興味深い理由は、最終的には利益をもたらさないAとBが、目先の報酬としては最大の金額を与えるからです。

つまり、ゲームを有利にプレイするには、目の前に出された100ドルというおとりの誘惑に打ち勝ち、慎重に考えて、控えめな報酬金額と低い罰金を提供するCやDを選ぶことが必要なのです。

 

人生の多くは、このゲームと似た特徴をもちます。

 

僕にしても、今、仕事などやめて、静かな場所で科学本を読むことができたらどんなにいいでしょう。そうすれば、目の前に出された確実な報酬(「大好きな読書ができる♪」という報酬)が手に入ります。

しかし、人生という長い目で見れば、いま目先の楽しみに手を伸ばしたい衝動を抑えて仕事をした方が、はるかに有意義で素晴らしい人生となり得ることでしょう。

このように、僕たちは常に、目先の報酬から自分を抑制し、長期的な利益(社会的信頼を得て、それなりに仕事をしてお金を稼ぎ、幸せな人生を送ること)を追求しているのです。

 

誠実性を説明する上でアイオワ課題を持ち出したのには、もちろん理由があります。

誠実性が極めて低い人(特に、ギャンブル依存症、アルコール依存症、薬物依存症などの人)は、アイオワ課題において、AとBを選択してしまう傾向があるというのです。

これはつまり、目先の報酬への欲求を抑制することができないということです。

ここで興味深いのは、「AとBは全体としての分が悪い」と、本人が理解しているにも関わらず、AやBを狙うのをやめられないということです。頭では分かっていても、目先の報酬を抑制することができないわけです。

「頭では分かっているが、やめられない」

 これは多くの人が実感していることでしょう。
ダイエットしたいのにお菓子を食べてしまう。タバコをやめられない。パチンコをやめられない…(目先の報酬を得たいという衝動を抑制できない)
課題をやらなければいけないのにネットやTVを見てしまう。 仕事を辞めてしまう…(「やりたくない事から逃れる」=「報酬」を得たいという衝動を抑制できない)

こういった事は、少なからず誰にでもあることでしょう。

これらに共通するのは、「衝動を抑制できない」ということであり、その能力には個人差があります。

それが、誠実性のスコアにあたるわけです。誠実性の高い人は、自身の衝動を抑制できる人であり、誠実性の低い人は、自身の衝動を抑制できない人ということになります。

誠実性のスコアが高い人はまじめできちんとしており、自己をコントロールできる。一方スコアの低い人は衝動的で、気の向くままに行動し、意志が弱い。

 

ここで理解して頂きたいのが、「報酬の強さ」は、その依存度には関係ないということです。
「ギャンブル依存者は、ギャンブルによって得られる快感が大きいため、やめられないのだ」と思われがちですが、そうではないのです。

『外向性』の記事で説明したように、報酬の強さに関わるのは、『外向性』のスコアですが、その依存度を予測するのは、外向性よりもむしろ誠実性だということがはっきりしているのです。

人が何かを始める理由と、その何かをやめることができない理由とを区別しなくてはならない。

外向性のスコアの高い人は、スコアの低い人よりも、酒、ドラッグ、もしくはスリリングな勝負から手に入れる快感が大きいです。しかし、もし、彼らの誠実性のスコアも高いのであれば、どれほどその快感が大きくても、二度と手を出さないでいられるのです。

例えば、翌日の仕事に差し支えるとか、ギャンブルで遊ぶために節制する必要があるといった理由で、自身を抑制するための脳のメカニズムがあるということです。

実のところ依存症というのは、いったん報酬を味わった行動を抑えられないことから生じるのであり、もたらされる快感が大きいからではない。

多くの薬物依存症の場合、脳が依存薬物に慣れきっているため、薬によってもたらされる快感は本質的にゼロに等しい。

繰り返してしまうのは、快感を求めるためではなく、ましてやむにやまれぬ渇望でさえなく、いったん形成された習慣をやめる抑制メカニズムが無力だからだ。

ここで、脳画像測定器を用いた、広島大学の研究について少し詳しく見てみましょう。

これはゴー・ノーゴー課題と呼ばれるもので、いたって単純な課題です。

スクリーンに文字が現れる度に、被験者はできるだけ速くキーを押さなければならないが、文字がXのときだけは押してはならない。

被験者は何度も、画面に何かが閃いたとたん速やかに反応することを繰り返すため、Xが現れたときにこの反応を停止するには非常な努力を要する。

こうして被験者は、Xという文字が出たときにキーを押してしまうというミスを頻繁に犯すことになる。

この課題をこなす際の脳画像によると、Xが現れたとき、脳領域の中でもとりわけ右背外側前頭前野において活動の増加が見られました。
つまりこの領域は、本人の意志によって衝動を抑制することに関わっているようなのです。

興味深いのは、この領域で活動量が増加する大きさは、実験の前に被験者が書き込んでいたパーソナリティー尺度、誠実性のスコアと直線的に関係していたのである。

誠実性が高い人たちは、キーを押すのを抑制しなけらばならなかった時、右背外側前頭前野の活性化が最大となった。

これが意味することは、はっきりしています。誠実性とは、前頭葉におけるこのメカニズム(目先の反応を抑制して、目標・規則の方を選ぶ)の反応性の大きさなのです。

誠実性が低い人でも、彼らの大部分は、依存症や反社会的障害に陥るほど極端とはなりませんが、
誠実性の低い人全員が、軽くはありますがこの種の衝動のコントロールで苦労している様子がみられます。

「やらなければいけないと分かってはいるのですが、怠け癖が邪魔をして… 本当はやりたくなんかないんです。」

誠実性の低い彼らには、「集中力が欠如」しており、ぶらぶらしている方が好きなのだ。実は、誠実性が低めの人が不利となる主な領域が、「仕事」なのだ。

全般的に見て、職業上の成功を予測する上で最も信頼できる要因は誠実性の高さなのだそうです。おおむね他の条件が同じであれば、誠実性のスコアが高ければ高いほど、成功の可能性も大きくなるようです。

 

ここまでの内容からすると、誠実性は、高いほうがよいと思われるかもしれません。
ドラッグやアルコールなどの依存症になるのを防ぎ、法律を犯すのを踏みとどまらせ、仕事の成功を助けるのですから。

しかし、高い誠実性もまた、状況によってはリスクになりえるのです。

誠実性とは、 人が内にもっている基準やプランに固執することを意味します。つまり、高い誠実性を持つ人は、決められたルールからそれることを嫌うのです。そしてそれが、臨機応変な対応を妨げてしまうのです。

狩猟採集生活の多くは、予測不能な出来事のために、前もって計画するのは不可能だった。

目の前を走り過ぎていくヌーの群れを見送りながら、「実は水曜日は蜂蜜集めの日なんでね」などと言うのは、けっして良い反応とは言えない。

狩猟採集生活の世界は予測不能であり、いくぶん無法で、ときとして暴力的で、また活動的で、常に変化しつづけていた。そのような世界では、誠実性が低い若者こそきわめて成功したはずである。

そして、現代社会においても、高すぎる誠実性はリスクになることがあります。

強迫性パーソナリティー障害(OCPD)と呼ばれる障害がある。これは誠実性が極端に高い状態であるが、本格的な障害と診断されなくとも、いくつかの症状に悩む人は多い。

OCPDは、「秩序、完璧主義、心と対人関係の統制にとらわれ、柔軟性、開放性、効率性が犠牲にされる広範なパターンであり、成人早期に始まりさまざまな状況で現れる」と定義されます。

この患者は、規則、リスト、スケジュールなどのほか、自分で決めたプランに固執して、細部にまで徹底してこだわるのです。

ロナルドは、ウィークデイには毎朝かならず6時45分に起き、2分15秒ゆでた半熟卵を二個食べ、8時15分には職場の机に向かう。そのあと一日が終わるまで、同じように厳しく統制されたやり方で過ごす…

スケジュールを変えざるをえなくなると、「不安と不快感、そして自分が何か間違ったことをしていて、時間を無駄にしているという感覚」に襲われる。スケジュールにおわれているため、臨機応変で柔軟な対応ができず、トラブルもしばしば起こる。

そして、対人関係においての障害も顕著に見られます。たとえばロナルドは、「ベッドに入る前の入念な手順」があります。

まず鼻孔にスプレーを噴霧し、アスピリンを二錠飲み、室内を整え、腹筋運動を35分間やり、辞書を2ページ読まなければならない。シーツの温度と糊のつきかたは適切でなくてはならない。部屋は静かでなくてはならない。

女性を泊まらせたりしたら聖域が侵されてしまうから、セッ○スのあとは女性を家に帰すか、リビングで寝かせようとする。これではどんな女性とも長続きしない…

このように、誠実性が高すぎることで生じる不利が実際にあるのです。

 

では最後に、高い誠実性を持つ利点と、同時にその問題のいくつかを垣間見ることができるキャサリンの例を見てみましょう。

「私は自虐的なほど大量の仕事を背負い込みました… リサーチのバイト、教務補助、採点業務のバイト、自分の学位論文の完成、大学の課程の残り…200時間に及ぶボランティアの仕事をすべてやり、学生組織のポストもいくつか選ばれて引き受けました。」

この驚くべき大量の活動量の理由はなんだろうか。キャサリンは言う

「私の職業倫理はいわば「軽躁状態」といったところです。ほとんど四六時中何かに取り組んでいて、調査したり、考えたり、計画を立てたり、実行しています。私にとっては、何もしないというのがむずかしいのです… 何もしないで時間を過ごしていたら、自分が怠け者で無駄な人間のように感じてしまいます… 重要な事柄を先送りするようなことはしませんし、大して重要でもないことでも大抵はすぐにやってしまいます」

彼女が一番気に入らないのは、「何も達成しないで時間を浪費すること」であり、そんなときは「レールから外れてしまったような感じ… くつろぎとは無縁」である。「成功へのプレッシャーを自分にかけているような感じがします」この全てが、彼女の華々しい履歴を支えている。

確かに華々しい履歴をもちますが、それと同時に大きなコストも生じさせています。

親しい友人はほとんどおらず、余暇を楽しむこともできず、満足のいく恋愛関係も経験したことがない…

キャサリンは、大学を卒業し、弁護士になるという最初の計画(厳格な計画!)が挫折した今、少々戸惑っているようです。

学業優秀で誠実性の高い若者たちの間に、これと同じ症候群がよく見受けられます。

高校・大学と続くハシゴには、頻繁な試験と、勉強という目標がつねに用意されており、努力するための一連のターゲットが与えられていた。

突然学校から世界に吐き出されて、不意に次の目標が何なのか分からなくなるのだ。彼らにとって、この時期は大いに迷いの時期となる。

このとき、誠実性の低い学生たちのほうは、たいして問題にぶつかっているようでもない。

 

現代社会では特に、「誠実性は、高いほうがよい」とされる風潮がありますが、それも良し悪し。

誠実性が高い人には、息の詰まる人生を送らせることになり、
誠実性が低い人には、「仕事ができないダメなやつだ」というレッテルを貼られてしまうことに繋がるかもしれません。

自身の特性を知り、特性に合わせ(そしてたまには逆らって)、よりよい生き方を選択していきたいものです。

 

→次の記事『特性5因子 ~共感する人~調和性』

コラム一覧

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。