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みんなの性格や考え方が違っている理由とは?

Guppy Tank

あらゆる生物の最大の目的は、生存生殖(繁殖)の率を高めること、つまり、遺伝子を永続させることにあります。

生存するために、危険を察知して逃れる術を学び、食物を効果的に得られる術を身につけ、
生殖(繁殖)するために、ライバルに勝る容姿、技術などを身につける。
そして、優れた個体が生き延びて繁殖に成功し、劣った個体は子孫を残すこと無く死に絶えていく。さらにその優れた個体群の中から、より優れた個体が繁殖に成功し…といったように淘汰され、より“完璧な姿”へと進化していくのです。

しかし、ここである疑問が生じます。

それぞれの環境に最適の容姿や能力があるとすれば、全ての個体がその“完璧な姿”になるハズではないのか?
同じ環境であるにも関わらず、その容姿や能力に差異があるのはなぜなのか?

その疑問に答えるべく、進化生物学の観点から考察していきたいと思います。

 

では、グッピーを対象にした研究をみていきましょう。

捕食者(グッピーを食べる大型の魚。例えば、パンプキンシードという名の魚)が存在するときのグッピーの行動には、それぞれ個体差があることがわかっています。

まずこのパンプキンシードを水槽に入れ、透明な仕切板で仕切られた反対側にグッピーを入れてみると、
何匹かのグッピーは、他のグッピーに比べて捕食者の近くまで泳いでいき、しばらくの間そこにとどまり続けます。

この傾向は、テストを繰り返した時でも、個体間でかなり一貫して見られます。普通より用心深いグッピーもいれば、それほどでもない個体もいるのです。

そしてリー・ドガトキンによる有名な実験は次のようなものです。

まず、上記のような隣接水槽を使って、グッピーを用心深さの点で高、中、低の三つのグループに分ける。つぎに、それぞれのグループからグッピーを取り出し、パンプキンシードのいる水槽に入れた。

36時間後、高度の「用心深さ」を持つ20匹のグッピーのうち、14匹がまだ生きていた。それに比べて中度にあたる20匹のうち残っていたのは7匹であり、低度の20匹のうちでは、残っていたのはわずか5匹だった。

60時間後には、高度の「用心深さ」グループは8匹が生き残ったが、低度のグッピーは1匹も残っていなかった。

この実験で示されたことは、捕食者の存在によって、用心深さが低い個体は強力に淘汰されていくということです。
ですがもしそうなら、今では用心深いグッピーしかいなくなるハズです。彼らの無謀な兄弟たちは、捕食者の朝食になったのですから。

 

それではなぜ、未だに個体差が残っているのでしょう?

 

その答えは、これに関連した、シリル・オスティーンらの研究が提供してくれました。

この研究で用いられたグッピーはトリニダード全域に生息する多様な集団から集められました。
その中には、川の上流で流れが急であるために、捕食者があまり潜んでいない場所に棲むグッピーのグループもあれば、逆に捕食者が多く潜む下流に棲むグッピーのグループもありました。

そしてそれらのグッピーを人口池に入れて実験を行なったのです。

異なる生息域からのグッピーを捕食者のいる人口池に入れると、上流からきたグッピーは、下流からきたグッピーより、捕食者に食べられやすかった。

この結果からすると、下流のグッピーが食べられにくいのは、捕食者との経験から学習したためだと考えられるかもしれませんが、実際はそうではありません。

グッピーを捕まえ、水槽で繁殖させると、下流の生息環境で暮らしていた親の子は、上流の生息環境からきた親の子よりも、捕食者のいる水槽で生き残る率が高いのです。

当然、子には捕食者との経験がありません。親が一度も見たことのないようなタイプの捕食者を水槽に入れたときでさえ、結果は同じだったのです。

これに対する最も妥当な説明は、「用心深さ」は遺伝する、ということです。

捕食者が多く潜む下流の環境では、自然淘汰は、集団を高度な用心深さの方向に向けていきます。
ですが上流では、淘汰はその方向には向いません。逆に、用心深さとは逆の方向に向かうようです。

その理由はこうです。

捕食者と一緒に住んでいたグッピーたちを、捕食者のいない生息環境に移して新しい集団を作らせると、用心深さのレベルは数世代のうちに低下していった

例えばあなたがグッピーだとしたら、捕食者を警戒している間は、食べもせず、休みもせず、あるいは交配もしないでしょう。
もし捕食者がいないのにも関わらず四六時中警戒していたならば、適応度はもっとのんきな競争者より劣るに違いありません。(あなたが警戒してじっとしている間に、のんきな個体は活動的に食べ物を探し回り、異性を探し求め、交配することでしょう)

つまり、用心深いあなたが優位に立てるのは、捕食者が現れたときだけなのです。

ここでまた新たな疑問が浮かびます。
なぜグッピーは、異なる二つの種にならないのか?下流に棲む用心深いグッピーと、上流に棲んで捕食者への警戒行動を持たないグッピーとに。

ひとつの理由は、上流と下流の生息環境が隔離されていないからです。グッピーは下流から上流(上流から下流)へと、移動するのです。したがって、この二つのタイプはたえず混ぜ合わされるのです。

もうひとつの理由は、捕食者の存在は、けっして全か無かの状況ではないということです。捕食者の分布状況は時間とともに変わるのですから。雨によって川の水量が豊かになれば、捕食者ははるばる上流まで出かけるかもしれない…

 このように自然淘汰は、絶え間なく変化する環境と共に、警戒することの利益とコストがせめぎ合いながら絶えず変化するのです。

その結果、グッピーの集団を全体として見れば、用心深さをめぐる遺伝子による違いは広範に分布しているわけです。

 

 

さて次は、シジュウカラの研究を紹介します。

シジュウカラの探索行動には個体差があることが立証されています(グッピーの用心深さのように)。その特性は長期に渡って首尾一貫していて、親から子へも受け継がれます。

「速い」探索行動タイプのシジュウカラは、活動的で攻撃性を持ち、より広範囲を飛翔し、
「遅い」探索行動タイプのシジュウカラは、その場に釘付けになる傾向が見られます。

そしてこの探索行動は、繁殖の成功にある重要な効果をもっているのです。

 

その様子は、ニールス・ディンゲマンセらの研究によって示されています。

1999年、2000年、2001年の三年をとり上げ、パーソナリティーが生存や繁殖とどう関係するかを調べた。

1999年と2001年はシジュウカラの餌となる種子が少なく、2000年は非常に多かったため、環境の変化によるシジュウカラの繁殖に大きな違いが生じた。

メスの場合、
1999年と2001年は、厳しい環境のせいで生き残るシジュウカラは少なかったが、生き残った多くの個体は「速い」探索行動タイプであった。これはおそらく、乏しい食料をめぐる競争で優位に立ったからであろう。

そしてオスの場合、
2000年という食料事情の良い年には、生き残る個体が多かったため、オスのテリトリー争いは壮絶となる。そんな中「速い」タイプのオスは、その活動性と攻撃性によって、競争を勝ち得たのだ。
しかし、1999年と2001年には、食料不足のために生き残る個体が少なく、テリトリー争いはあまり起こらなかった。すると「速い」タイプのオスは、そのあからさまな攻撃性があだとなり、戦いをこのまない「遅い」タイプの雄が多く生き残ることになったのだ(不必要な攻撃性はコストとなる)。

この研究においても、グッピーにおけるそれと同じように、絶えず揺れ動く環境によって、最適な戦略行動が変化して行くことが立証されたのです。

それを踏まえると、自然淘汰が単一の行動(遺伝子型)を固定することなどありえないのです。

 

ここで、「グッピー」と「シジュウカラ」の例を選んだ理由は、それらに見られる性格的特性が、ヒトのそれと酷似しているからです。

グッピーの「用心深さ」のレベルは、ヒトの神経質傾向のレベルに、
シジュウカラの「探索行動」のレベルは、ヒトの外向性のレベルに、それぞれきわめて似ているのです。

他にも例を挙げることはできますが、それらは全て、ある原則に基づいています。

いずれのケースにも遺伝性の行動特性があり、その一連の効果はある環境のもとでは繁殖に有利であり、別の環境のもとでは不利となる。

いずれのケースでも、それらの利益とコストが何か、どんな環境で真価を発揮できるのかを見つけ出すことができる。

 

そしてこれは、ヒトにもあてはまります。

ヒトの性格や考え方、行動特性に差異があるのは、絶え間なく変化する環境に適応するべく獲得した特性なのです。
活動範囲が広く、交流が複雑なヒトにおいては、その行動特性に様々なバリエーションが生じています。

しかし、さまざまなバリエーションがあるとはいえ、基本的な次元はたったの5つ。

その5つの次元におけるレベルの違いが、個々の特性を複雑にしているのです。(グッピーの「用心深さ」においても、シジュウカラの「探索行動」においても、その違いは“レベルの違い”でした)

その5つの特性については、次回以降、『思考癖の直し方』の一連記事として説明していきます。

 

→次の関連記事『思考癖の直し方(4)幸福感のおよそ50%は遺伝で決まっている』

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