photo by Yu-Chan Chen
記憶には、短期記憶と長期記憶があります。
これは文字通り、数秒〜数時間といった短期的な記憶と、数日から数ヶ月といった長期的な記憶ということです。
例えば、英単語を10個勉強して、10分くらいで全部覚えたとします(短期記憶)。しかし、一週間後になると、半分くらいは忘れてしまいます。
これら全てが長期記憶に置き換わるなら、一週間後だって10個全部覚えていられるのですが、そうもいきません。復習を何度かしない限り、なかなか長期記憶に置き換わらないのです。
それが、記憶の特徴です。長期記憶にしたければ、何度も経験し、復習する必要があるのです。
ですが、一回の学習でも、長期記憶へと引き伸ばす手助けとなる方法がいくつかあるのです。
その中のひとつを、最近読んだ文献から紹介します。
まずはネズミの実験から。
ネズミは、新しいものに興味を示し観察するのですが、一度覚えたものは観察なんてしません。
それを利用して、ネズミの記憶力を実験したのです。
積み木やボールなど、物体が2つだけ入っている箱に、ネズミを4分間いれます。
そして箱から出して巣へ戻し、しばらく時間を置きます。
その後、同じ箱にネズミを戻すのですが、2つの物体のうち1つが、新しい物体に変えられています。
するとネズミは、前回からあった物体と、新しい物体のどちらも観察を始めます…。
しばらく時間を置くのは、数分〜数日など、さまざまなケースで行いました。
箱から出して巣に戻し、30分後にこの実験を行うと、新しい物体を75%の割合で観察するのです。
ということは、ネズミは「前回からあった物体を記憶している」ということになります。
そして2日後にこの実験を行うと、ネズミは前回からあった物体も、新しい物体も、観察時間は五分五分になるのです。これは、「前回あった物体も、すっかり忘れてしまった」ということです。
つまり、30分間なら覚えていられるけど、2日間は覚えていられないということです。
さてここからが本番です。
研究者らは、ネズミを一度箱に入れたあと、すぐに巣へは戻さずに気分転換をしてもらうことにしました。
これまでに一度も来たことがない、新鮮な場所で5分間過ごしてもらったのです。
そして、気分転換をしてもらったネズミに、2日後に実験を行ったところ、なんと成績は70%にまで上昇したのです。
(Ballarini, F Moncada, D, Martinez, MC, Alen, N, Viola, H. Behavioral tagging is a general mechanism of long-term memory formation. Proc Natl Acad Sci U S A, 106:14599-14604, 2009.)
これは、気分転換によって記憶が強化され、長期記憶へ引き伸ばすことができたということです。
ちなみに、気分転換をするタイミングですが、さまざまな状況で調べたところ、箱に入れる前でも後でも、1時間以内だと効果があることが分かりました。そして、4時間以上置くと効果はなくなりました。
つまり、気分転換の前後1時間が、記憶力が高まる時間帯なのです。
そしてさらに、この実験を行った博士らは、この発見を人へも応用してみたのです。
1676人の小学生を対象とした実験です。
まず担任の先生が、普通に国語や算数の授業をします。
そしてその後、普段は授業をしない場所へ移動し、そこで初めて会う先生の授業を20分受けます。
すると、先ほど教わった国語や算数の成績が、なんと1.5倍に高まったのです。
この気分転換による記憶力の向上は、
やはり通常の授業の前後1時間がよく、4時間以上置くと効果は得られませんでした。
(Ballarini, et all. Memory in elementary school children is improved by an unrelated novel experience. PLoS One, 8:e66875,2013.)
重要なことは、「今日は気分転換の授業があるよ」と事前に生徒へ知らせると、効果が消えてしまうということです。サプライズ的に、不意に行われるからこそ、本当の気分転換になるのですね。
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