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腰痛患者に共通する反応とは?

9/52 pain

腰痛を発症する方はとても多く、再発を繰り返し、慢性的に悩まされている方も多いです。

腰痛の原因としてよく耳にするのが、椎間板ヘルニア、脊椎の変形、筋力の低下、肥満、ストレスなどにより痛みが生じているという理論です。(種々の原因、詳細に関しては、いずれ他記事にて説明していきます)

さまざまな要因が複雑に絡んでいることは間違いありませんが、腰痛のはっきりした原因は解明されていないのが現状です。(メディアによる「腰痛の主原因はこれだ!」というものは、どれも一説に過ぎません。医学者、科学者の統一見解は存在しません)

しかし原因が解明されていない一方で、腰痛を発症した方がほぼ必ず生じる反応は分かっています。

それは、多裂筋たれつきんの反射抑制です。

この反射抑制は、「何が原因か?」に関わらず生じるものであり、”痛み”への防御反応として無意識に生じるものです。

少し専門的な話になりますが、最後まで読んで頂ければ理解できると思います。

 

まず、多裂筋を見てみましょう。

背中側から、皮膚をはがし、皮下脂肪、僧帽筋(そうぼうきん)や肩甲骨などを取り除いたのが、下図の右半身です。広背筋が見え、広背筋の下には下後鋸筋(かこうきょきん)が見えています。

腰痛 腰部の浅層筋1

 そして、広背筋と下後鋸筋(かこうきょきん)を取り除いたのが上図の左半身になります。白っぽく見えるのは胸腰筋膜・浅葉(きょうようきんまく、せんよう)という薄い膜状の組織です。下図の右半身も、これと同様です。

 さらに、胸腰筋膜(きょうようきんまく)を取り除いたのが下図の左半身です。

 腰痛 腰部の浅層筋2

胸腰筋膜の下に腸肋筋(ちょうろくきん)と最長筋(さいちょうきん)が見えてきます。

下図の右半身は、腸肋筋(ちょうろくきん)を取り除いたもの。そして下図の左半身は最長筋(さいちょうきん)を取り除いた図になります。

  腰痛 腰部の深層筋

これでようやく多裂筋(たれつきん)が見えてきました。

多裂筋は、皮膚、皮下脂肪、広背筋、下後鋸筋、胸腰筋膜(浅葉)、最長筋の下にある、かなり深い位置にある筋肉だということが分かりましたでしょうか。

この、多裂筋は脊柱の安定保護の役割を果たす筋肉だと言われています(腹横筋も脊柱保護の筋肉です)。

特に健常者の多裂筋は、腰部の安定性に重要な役割を果たしており、この点に関しての科学的証拠は形態学や筋組織の構成、ならびに生体力学や筋活動の研究を通じて明らかとなっています。

多裂筋を構成する主要な筋繊維はタイプⅠ繊維で、このタイプの筋繊維は持続収縮が可能であるため、脊柱を直立位に安定させることができると言われています。

つまり、多裂筋の機能障害は腰椎の保護・支持に多大な影響を及ぼすことを意味するのです。

 

そして反射抑制というのは、云わば「力を入れようとしているのに、痛みのせいで力が入りにくい状態」であり、”痛み”などの感覚刺激が、筋の意識的な収縮を抑制するのです。

つまりこの反射抑制が生じる筋は、うまく使えなくなります。そしてもちろん、使わない筋はやせ細って委縮していくことになります[Stener (1969)]。

また、抗重力筋で単関節筋であり、遅筋線維の割合が相対的に高い筋は、不動(筋を使わないこと)によって萎縮しやすいことが知られています[Appell (1990)]。

そしてこのような特性を持ち、反射抑制の生じやすい筋が、多裂筋なのです。

 

以前より、腰痛患者では、発症原因が何であれ多裂筋が疲労しやすいことがいくつかの研究で報告されていました[Biedermann et al (1991), Roy et al (1989)]。

そして多裂筋に的を絞った、リアルタイムに観察できる超音波画像を使用した研究により、腰痛患者には早期に多裂筋に機能障害が生じ、筋の大きさも減少していることが確認され、これは反射抑制の影響であることが示されているのです[Hides et al (1994,1995,1996)]。

さらに、この横断面積の減少は受傷後数日以内に起こり、片側性腰痛患者では痛みが出現している側にのみ認められることからも、腰痛と多裂筋の減少との相関が見て取れます。

 

ここまでの科学的証拠を簡潔にまとめると、

『多裂筋は、腰部の安定保護に重要な筋肉である』

『腰痛により多裂筋に反射抑制が起こり、多裂筋が委縮していく』ということになります。

それを踏まえた上で、腰痛発症後に長期に渡って追跡調査した研究を見てみましょう。

急性腰痛(いわゆるギックリ腰など)の痛みは4週間以内に患者の90%で寛解するが、多裂筋の大きさは正常には回復しなかった。さらに、痛みもなく通常通り仕事やスポーツ、レジャー活動を行うことができるにも関わらず、多裂筋の大きさの減少は6週間経過した例でも改善しなかった。

痛みが治まり、通常通りにスポーツができるようになっても、多裂筋の弱体化や機能障害は回復しないのです。

これは、医療人がよく言う「腰痛を予防するには腹筋背筋を鍛えるとよい」というのが誤っていたことを意味しています。そういった運動では、多裂筋は回復しないのです(広背筋などの浅層筋は鍛えられます)。

さらに、多裂筋の減少が片側に認められる急性腰痛患者を2群に振り分け、一つの群は多裂筋に対して特定の運動アプローチが施され(運動群)、もう一つの群は特定の運動をしない対照群とし、追跡調査した研究があります。

対照群においては通常の痛みのない範囲での仕事やスポーツ、レジャー活動を1か月以上行っても多裂筋の筋線維の大きさの減少は回復しなかった。一方、特定の運動群では4週間の運動期間で多裂筋の筋線維横断面積が正常に回復した。

さらに、対照群と運動群の再発率を検討するため、長期にわたる追跡調査も行われた。結果として、初発から3年間の再発率を比較すると、運動群は対照群より統計学的にも優位に低い値を示した[Hides et al (2001)]。

これらの研究結果から、以下の三つのことが分かります。

  1. 腰痛が慢性化し再発を繰り返すメカニズムに、多裂筋の減少が関与している可能性は高い。
  2. 自然治癒にまかせ、一般的な運動をしていても、多裂筋が正常な状態に回復することは困難。
  3. 多裂筋に対する特定の運動テクニックにより腰痛の再発や慢性化を予防できる。

 

では、その『特定の運動テクニック』というのは、どのようなものなのでしょうか。

→次の記事『特定の安定性運動アプローチとは?』

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