過去記事
『セルフマッサージやストレッチをするにあたって、知っておいた方がよいこと』
『痛みの強さを基準にマッサージしなほうがいい理由』の続きです。
これまでの記事で、【強いマッサージによって痛みの閾値が上がることで、ますます強い刺激を求めるようになる】ということを説明してきました。
今回は、それによる悪影響について説明します。
簡単に言いますと、それによる悪影響は主に2つです。
1つ目は、【損傷している組織を、より傷つけてしまう】ということ。
2つ目は、【強い刺激によって筋肉が緊張してしまう】ということです。
今回は1つ目の「損傷している組織を、より傷つけてしまう」ということについて説明していきます。
簡単に説明しますと、
筋肉や靭帯などの組織を損傷している場合、その部分を強く刺激してしまうと、治りが悪くなってしまうのです。
例えば、切り傷などで出血している場合、そこを強くマッサージしようとは思わないですよね?
傷口をぐりぐりイジっていたら、治りが悪くなることは皆さんご存知の通りです。
筋肉などの損傷でもそれは同じで、
強い刺激が加わると、余計に炎症を起こしたり、内出血したりと、組織をより傷つけてしまうのです。
にもかかわらず!
筋肉の損傷は、切り傷のような目に見える損傷ではないので、疲労によるコリの痛みと混同してしまうことがあります。
そのせいでマッサージをしたくなってしまうのです。
そして、強いマッサージをすると痛みの閾値が上がり、もっと強く刺激してしまう。
すると、更に痛みの閾値が上がるので、その時だけ楽になるのです。
これについて、少し図解します。
筋肉には、ゴムを少し引っ張っているような、ある一定の張力があります。
そのため、外から刺激をせずに安静にしていても、ある一定の負荷がかかっているのです。
(ごくわずかな負荷レベルなので、疲労や損傷がなければ、それを負荷とは感じません)
そして損傷しているときは、痛みの閾値が低下しているので、その安静時の負荷レベルよりも痛みの閾値が下になります。
痛みの閾値よりも、刺激(負荷レベル)が高くなると「痛い」と感じることは、過去記事で説明してきた通りです。
つまり下図のようになり、何もしていなくても痛むのです。
上のように、何もしていなくても、痛みの閾値を超えている(つまり「痛い」と感じている)のですから、それを強くマッサージすると、とっても痛いです。
ですが、その刺激によって痛みの閾値が上昇するのです。
下図は、損傷部位を強くマッサージしているサマをグラフ化したものです。
損傷部位は、安静時でも、痛みの閾値が下にあるため、「痛み」を感じていました。
しかし、強いマッサージ刺激をすると、痛みの閾値は上昇します。
(これについては、『痛みの強さを基準にマッサージしない方がいい理由』を参照下さい)
そして、刺激を止めた直後も、痛みの閾値が安静時の負荷レベルよりも上にありますから、
「マッサージしたら痛みがなくなった!マッサージはいい!」
と感じてしまうのです。
(上図の青線間(←→の間)は、痛みの閾値の方が上にあるため痛まない)
しかし、
痛みの閾値の上昇は一時的なものなので、しばらくすると、また痛くなってきます。
すると「またマッサージしなきゃ!」と、(損傷部を更に傷つけてしまうような)強い刺激を与えてしまうのです。
しかも、強い刺激をするほど、痛みの閾値は上昇していく傾向にあるので、そこから痛みの閾値が低下していくのに少し時間がかかります。
そのため、強くマッサージするほど、その直後の“痛みがなくなる時間”が長くなるのです。
下図の2つは、強いマッサージ(上)と、弱いマッサージ(下)による痛みの閾値の変化を比較したものです。
上2つを比較すると、
強いマッサージをした時の方が、痛みの閾値が上昇する分、痛まない時間が少し伸びます。
すると、「強くするほど、痛みが和らぐ」という経験から、「強いマッサージほど良い」と考えてしまいがちになります。
しかしこれは、強いマッサージによって“痛み”という感覚が鈍くなっただけであって、損傷部が治ったわけではありません。
むしろ、その刺激によって悪化させているかもしれないのです。
単なる筋肉の疲労くらいでしたら、そんなに問題にはなりませんが、
特に、何かをした瞬間にズキッ!とか、ピキッ!とかなって痛くなったものは要注意です。
数日たっても痛みが治まらない(または、痛みが増してきた)場合は、専門の医療機関で診てもらうことをおすすめします。
というわけで、傷病によっては、マッサージのせいで回復が遅くなったり、痛みが慢性化してしまうこともありますので、自分でマッサージやストレッチをする際は気をつけていただきたいと思います。
次回は、強いマッサージによる悪影響の2つ目、【強い刺激によって筋肉が緊張してしまう】ことについて説明していく予定です。
「筋肉を緩めたいのに、逆に緊張させてしまった」なんてことのないよう、効果的なセルフケアのために参考にしていただければと思います。