photo by pau.artigas
「頑張ってトレーニングしているのに記録が落ちてしまう」
という悩ましい問題は、アスリートにはよくあることです。
その原因はざっと挙げただけでも、
過度のトレーニング
フォームの変化
重心の変化
食事のとり方
睡眠・休息期間のとり方
心理的作用
好調の揺り戻し
などなど様々ですが、今回は食事に焦点を当てて説明していきます。
これまで、新陳代謝や同化異化の話をしましたが、それは筋肉でも同様に働いています。
古くなったり傷ついたりした筋肉細胞を分解して新しく合成したり、筋肉内でもエネルギー(筋グリコーゲン)を出し入れしたりしています。
専門的に言うと、下の2つが、運動における筋肉の主な代謝サイクルです。
①運動中の筋肉細胞のタンパク質の異化(分解)と、運動後のタンパク質の同化(合成)
②運動中の筋グリコーゲンの異化(分解)と、運動後の筋グリコーゲンの同化(合成)
今回はまず、①の筋肉細胞のタンパク質の異化作用(分解)と同化作用(合成)から説明していきます。
筋肉細胞も新陳代謝していますので、
何もしていなくても(運動をしなくても)、古くなった細胞や壊れた細胞は分解され、新しい細胞が合成されてます。
そして、運動をすると筋肉の異化作用が促進します。
運動がハードであればあるほど、長時間であればあるほど、どんどん分解されるのです。
つまり運動をすると、必ず、筋肉は痩せるのです。
下図を見てください。運動中は、タンパク質の異化作用が、合成よりもずっと大きくなっています。
『リカバリーの科学』P90
さらに、上図グラフの【酸化作用】と書いてある部分ですが、これはアミノ酸の酸化にあたります。 アミノ酸はタンパク質の材料になるものです。もちろん、筋肉の材料にもなります。
そのアミノ酸の酸化というのは、アミノ酸がエネルギー代謝に使われたということです。
つまり、運動をすると、筋肉自体や、筋肉の材料までもがエネルギー代謝として使われてしまうのです。
冒頭でも書いたように、
アスリートが、トレーニングを死ぬほど頑張っているのに、全然筋肉が付かないし記録も落ちていく… なんてことはよくある話ですが、こういった筋肉の異化作用が関係していることがあるのです。
とは言え、この筋肉の異化作用は、悪いことばかりではありません。
異化が起こるからこそ、その後の合成を促進させることができるのです。
基本的には、人体を構成する細胞の数には限りがあります。
より強い細胞や組織を作りあげるには、弱い部分を分解しなければ、新しく強い細胞に置き換えることはできません。
もう一度グラフを見て下さい。
『リカバリーの科学』P90
運動後は、筋肉の合成が上回っています。
身体を強くするために重要なのは、まずしっかり異化させることと、その後の同化(合成)を促進させることなのです。
そこで、食事(栄養)の摂取が大切になってきます。
下図、『タンパク質サプリメントの摂取タイミング』の研究報告を見てください。
運動直後にタンパク質を摂取したグループ(折れ線グラフの上■)と、
運動3時間後にタンパク質を摂取したグループ(グラフの下○)との比較です。
『リカバリーの科学』P91
タンパク質の合成率が、運動直後のタンパク質摂取(この研究では10g摂取した)によって、大きく改善されているのがわかります。
さらに言うと、3時間以上経ってからタンパク質を摂取したグループは、
運動によって異化されたタンパク質量を、運動前の値まで回復させることはできなかったと報告しています。
他にも、筋トレ直後(5分後)にタンパク質を摂取した方が、2時間遅れて摂取した場合よりも、筋肥大と筋力の増加が見られたという報告もあります。これは中高年や、高齢者においても確認されました。(『高齢者の抵抗運動における、運動後のタンパク質摂取タイミングの重要性について』Esmarck et al. 2001)
若くても、年配でも、同様に運動直後のタンパク質の摂取が有効だということです。
(※過剰なタンパク質の摂取は、健康(特に内臓機能)に悪影響を及ぼすことも報告されていますので注意が必要です!)
今回の内容をまとめます。
・トレーニングをすれば、必ず筋肉は異化する。その後の同化を促すためにも、タンパク質をしっかりと摂取する必要がある。
・トレーニング(特に、ハードなトレーニング)直後のプロテインの摂取には、その後の筋肉の合成に確かな効果がある。
さて次回は、②の、筋肉のエネルギー源である、筋グリコーゲンと栄養摂取の話をしていきます。
本記事の主な参考文献↓
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