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クロスカントリースキーのストックの使い方を科学する(1/2)

photo by TRAILSOURCE.COM

「クロスカントリースキーのフォームを科学的に説明して欲しい」というご意見を頂きました。

もうすぐシーズンが終わってしまうので、今更感がありますが、来シーズンに活かしていただければ幸いです。

またこの記事は、「筋肉の特性を活かして、効率的に身体を動かす」という内容になります。

僕は、陸上、野球、サッカー、バレー選手などなど、さまざまなスポーツ選手にこの話をしてきました。
あらゆるスポーツに応用できる基本的な部分ですので、「自分の携わるスポーツには、どう活かせるか?」と考えるのも面白いと思います。

 

 

まず、フォームの話に入る前に、筋肉の特性である【収縮力】と【ホールド力】について説明します。

運動が苦手なうちの奥さんに手伝ってもらい、握力で説明していきます。

右手の握力は23.9kgでした。これが収縮力です。
指を曲げて握り込んでいく力。

つまり、関節を曲げていきながら力を入れるのが収縮力になります。

 

そして今度は、僕が握力計を抑え、うちの奥さんに体重を乗せて引っ張ってもらいます。

これだと大幅にアップして32.4kgでした!これがホールド力です。
指を曲げたまま開かないように固定(ホールド)する力。
(ちなみに、撮影前の練習では40kgを超えました。本番に弱いようです。)

つまり、関節を固定(ホールド)したまま、外力へ抵抗する力として働くのがホールド力になります。

 

どちらも、同じ右手の、同じ筋肉を使っているのですが、
筋肉を収縮させるか、ホールドさせるかで、これだけ大きな違いが出るのです。
誰でも(運動おんちでもスポーツマンでも)、1.3倍〜1.6倍くらい違います。

 

さらに!この実験をやった本人は分かるのですが、
「収縮力より、ホールド力を使う方が楽」なのです。

収縮力を使った時は、ムギ〜ッ!とかなり頑張って23.9kgだったのですが、
ホールド力の時は、そんなに気張るまでもなく、一瞬で32.4kgまでいきました。
疲れもあまりないし、心拍数も大して上がりません。

 

ただし、もちろんホールド力は良いことばかりではありません。

ホールド力は強い力を発揮できる分、(強い負荷をかければ)筋肉にも大きな負担をかけることになります。そのため、筋肉を痛める可能性は、収縮力を使うより高いです。

両者の特徴を比較すると以下のようになります。

【収縮力】
・関節を曲げていきながら発揮する力。
・力が弱く、辛く、遅い。
・筋損傷は起こしにくい。

【ホールド力】
・関節を固定する力。
・力は強く、楽で、速い。
・筋損傷は起こしやすい。

※これから説明する、スキーのストック使いくらいでは、ホールド力を使ったからといって筋損傷をすることはまずありませんのでご安心ください。

つまり、ホールド力をうまく利用できれば、楽に、大きなパワーを発揮できるということです。

 

 

それから、筋肉の特性についてもう一つ大事なものがあります。

大きい筋肉ほど、大きなパワーを発揮できる

当たり前の話ですが、太ももの大きな筋肉の方が、指を動かすような小さな筋肉よりも、大きなパワーが出せます。

 

 

ここまで説明した筋肉の特性2つをまとめると、
収縮力よりホールド力の強く、小さな筋肉より大きな筋肉の方が強いということです。

とは言え、スポーツ全ての動きにおいてホールド力だけを使うというのは不可能ですし、小さな筋肉も使わなくてはなりません。

そのため、効率的に身体を動かすためには、
収縮力は大きい筋肉に任せ、小さい筋肉ではホールド力を用いるということが重要になってきます。特に、身体に大きな負荷がかかるような状況ではなおさらです。

 

 

ではそれを踏まえた上で、ストックの使い方(推進滑走。ダブルポール走法)に入ります。

厳密には全身を使いますが、ここでは簡易化し、腕(肩関節)だけに注目して見ていきます。

上のように、ストックを突いて、腕を後ろへ流すことで推進力にします。

エネルギーメーターにも注目してください。

一番力がかかる瞬間は、1コマ目のストックを動かし始める時です。
ストックをついた後は、身体は加速していく分、後半は少ないエネルギーで身体を前に進めることができます。

車を発進させる時もそうですが、止まったところから動かすときが一番エネルギーを使い、スピードに乗ると少ないエネルギーでそのスピードを維持できるのです。(慣性の法則が働く)

 

腕の筋肉は、体幹部の筋肉と比べたら、小さくて弱い筋肉です。
そして、腹筋などの体幹の筋肉は大きくて強いです。

ということは、先程の大原則からすると、
ストック使いの前半(大きな負荷がかかる時)は、収縮力は腹筋群に任せ、腕の筋肉はホールド力を使った方がよいのです。

では、先ほどのストック使いに、腹筋群の収縮力による股関節の動きも加えてみます。

だいぶそれっぽい動きになりました。

1コマ目から2コマ目では、股関節が腹筋群の収縮力によって動いているだけで、肩関節はホールド力によって動いていません。
そして2コマ目から3コマ目では、股関節は動いておらず、肩関節の収縮力でストックを使っています。

動きが分かりやすいように、上画像のスキーを滑らせずに、身体の動きだけで見たのが下画像です。

分かりやすいように、腕(肩)と、体幹(股関節)の2つに絞って説明しましたが、厳密にはもっと多くの筋肉が関わっています。

大まかな流れはこうです。

1、股関節(体幹)の収縮力+肩のホールド力、肘のホールド力、手首のホールド力

2、肩の収縮力+肘のホールド力、手首のホールド力

3、肘の収縮力+手首のホールド力

4、手首の収縮力

これらが一連の流れとなり、なめらかなフォームとなります。

1から4へ移行するにつれて加速していきますので、必要とするエネルギー量(負荷)は減っていきます。
1>2>3>4と。
負荷が小さくなれば、小さな筋肉でも効果的に収縮力を使えますので、2、3、4、へ移行するにつれ、徐々に末端の小さな筋肉の収縮力も使い、可動域を有効に使います。

そしてその結果、スピードは乗算して急激に加速していけるのです。

 

と、ここまでの身体の使い方は、スキーをそこそこやっている方ならご存知のことでしょう。

ここからが玄人の方向けの話になるのですが、長くなりましたので次回に説明します。

 

→次の記事『クロスカントリースキーのストックの使い方を科学する(2/2)』

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