夜、電灯に群がる蛾や羽虫。
もし、その光が“炎”なら、蛾は焼け死んでしまいます。
それでもお構いなしに、炎の中に飛び込むのです。
なぜ、蛾は、光に向かって飛んでいくのでしょうか?
実はこの「光に向かう」という習性、
進化の歴史によって獲得した、「光で方角を測る」という素晴らしい能力によるものです。
本人(蛾)には、光(炎)に向かっていくつもりなんて全く無いのです。
蛾は通常、月や星など遥か彼方の光源を利用して、自分が飛んだ方角を知ります。
例えばあなたが、走行中の車に乗りながら月を眺めても、月はいつまでも付いてくるように見えるでしょう。
直線的に進んでいれば、あなたから見た月の方角は、どこまで行っても変わりません。下GIF画像のように。
なので帰り道では、それと反対の方角に月が見えるようにすれば、ちゃんと来た方角へ帰ることができるのです。
蛾は、そうやって帰路につきます。
これが進化の歴史によって獲得した適応能力なのです。素晴らしい。
ではこの適応能力を、近くにある炎に使ってしまうとどうなるのでしょうか?
例えば、「左斜め前45度に月を見ながら真っ直ぐ進む」ということを、近くにある炎でしてしまうと仮定します。
光源が近いため、蛾が直進すると、左斜め前45度にあった光源は、蛾から見て46度47度48度…と開いていってしまいます。下図のように。(直進するうちに、63度まで開いてしまいました)
蛾はそれを45度に見えるようにキープしようとしますから、飛ぶ方向を光源の方向へと傾けます。
しかし、上図のように修正しても、直進するとまた角度が開いてしまうため、再び飛ぶ方向を光源へと傾ける…、ということを延々続けます。
この蛾の飛行軌跡を辿ると、螺旋を描くように、徐々に光源へと近づいて、最後は炎に飛び込んでしまうのです。下GIF画像のように。
これが、蛾が光源に集まり、光源に飛び込んでしまう理由です。
(今度、電灯に向かう虫を観察してみて下さい。螺旋を描いて突入していくサマが見えます。)
そもそも、人間が誕生する前の世界では、夜の光源のほぼ全てが、月や星だったことでしょう。
炎が光源になることはマレで、もちろん電灯なんてありませんでしたから、十分に機能していた適応能力なのです。
しかし、この素晴らしい適応であるはずの能力により、誤って命を落としてしまうこともあるのです。
ここで少し、蛾を擬人化して想像してみてください。
もし、あなたが蛾で、その焼身自殺行動を改善したいとしたら、どうしたらよいでしょう?
まず「なぜ自分は炎に向かって飛んでしまうのか?」を理解する必要があるでしょう。
それが理解できれば、正しく機能しているケースと、誤っているケースを判断できるようになります。
そして、誤って炎に向かって飛んでしまうようなら、途中で「このままでは死んでしまうから、光源を無視して飛ぼう」と思考を改めることができます。
間違っても、「光源を利用して飛ぶこと自体を改善する」なんて考えないことです。それは、遺伝子に組み込まれたプログラムであり、書き換えることはできないのですから。
できるとすれば、誤ったケースにできるだけ素速く気付き、その行動を改めることなのです。
記事タイトル『焼身自殺をする蛾と、人間の心理の共通点とは?』の答えは、
どちらも進化の歴史に由来する、遺伝子に組み込まれたプログラムだということです。
ダイエットしたいのに食べてしまう…
貯金したいのに使ってしまう…
夫婦ゲンカなんてしたくないのにしてしまう…
それらもすべて、進化の歴史によって人間が獲得した適応能力が根底にあります。
それを根本から改善することなんでできないのです。改善する余地があるとしたら、誤った思考に陥りそうになった時、できるだけ素速く気付き、思考を改める(変化させる)ことなのです。
次回も、そんな進化の歴史によってプログラムされている思考回路について書いていく予定です。
※実は5年前、『思考癖の直し方シリーズ』を書いていたのですが、中途半端でずっと放置していました。次回から、その思考癖の直し方シリーズをリニューアルして最後まで書いていこうと思います。
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思考癖…。人それぞれありますよね。
育った環境とか、体験とかで偏ってしまうんですかね。
「思考癖の直し方シリーズ」すごく興味あるので、楽しみにしています。
親指さん、コメントありがとうございます。
思考癖は、おおよそ50%が遺伝子で決まっていて、残りの50%は育った環境や体験によって決まってくるようです。
「思考癖の直し方シリーズ」、とってもとっても長いシリーズになります。
途中で別の内容の記事も挟んだりしますので、気長にお待ちいただき、読んでいただければと思います。
( ^ω^ )